Management of acute coronary syndrome in the very elderly
Lancet 12 January 2016, online first
虚血性心疾患の中で、80歳以上の超高齢者が増えている。急性虚血性心疾患の中では、非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)が最も多い。ガイドラインではNSTE-ACSに対して侵襲的な治療戦略が勧められているが、80歳以上を対象にしたRCTは少ない。
高齢者の場合、併存疾患、認知機能低下、フレイルティ、ポリファーマシー、広範囲の虚血を引き起こす複雑な冠動脈病変を持っていることが多く、それらがNSTE-ACSに対する侵襲的治療戦略の有効性を弱め、合併症のリスクを増大させるかもしれない。
超高齢者のNSTE-ACSに対して、侵襲的治療戦略と保存的治療戦略を比較した唯一のRCTは、パワー不足であり全体的な有効性は示されなかったが、ベースラインでトロポニン上昇があったグループでは臨床的イベントが少なかった(JACC Cardiovasc Interv 2012; 5: 906–16.)。
80歳以上のNSTEMIとUAPを対象にしたAfter Eighty試験の結果がLancetに報告された。それは、侵襲的治療戦略を支持するものだった。主要評価項目は心筋梗塞、緊急血行再建の必要性、脳梗塞、死亡の複合エンドポイントで、冠動脈造影は平均して入院後3日で行われた。フォローアップ期間は1.53年(中央値)で、侵襲的治療戦略を取ったグループで、イベント数が低かった(40.6% vs 61.4%, HR:0.53, 95%CI:0.41-0.69)。NNTは4.8(3.4-8.5)であった。侵襲的治療戦略は心筋梗塞(HR:0.52, 95%CI:0.35-0.76)と緊急血行再建(HR:0.19, 95%CI:0.07-0.52)を有意に減少させたが、死亡についての有効性はなかった。それはサンプルサイズが小さいことや、PCI後の死亡の多くが非心臓死だからかもしれない。
After Eighty試験はハイリスクな患者特性であったにもかかわらず、臨床的に安定しており虚血が持続していないことが選択基準になっていた。それが参加者が少なくなった要因であり、この試験の結果は超高齢のNSTEMIやUAPの患者の多くに適応できないかもしれない。
After Eighty試験では、造影剤腎症や出血は以前の報告より多くなかった。
After Eighty試験は注目すべきエビデンスだが、高齢者の治療方針の決定には、生命予後、併存疾患、出血リスク、認知機能や身体機能、患者の意思などを加味して個別に判断すべきである。また、侵襲的治療戦略のQOL、再入院、コストなどについてのさらなる検証が必要である。