Prasugrel Versus Ticagrelor in Patients With Acute Myocardial Infarction Treated With Primary Percutaneous Coronary InterventionMulticenter Randomized PRAGUE-18 Study
Circulation. 2016;134:1603-1612
背景
プラスグレルとチカグレロルはクロピドグレルに対し高い有効性が示されているが、プラスグレルとチカグレロルの安全性と有効性の直接比較は行われていない。
方法
急性心筋梗塞(AMI)で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が施行された患者を対象に、プラスグレルとチカグレロルの安全性と有効性を比較した。14施設で、AMI1230例をPCI開始前にプラスグレルとチカグレロルに無作為に割り付けた。4%弱が心原性ショック、5.2%で人工呼吸器管理を行った。主要評価項目は、7日間での死亡、再梗塞、緊急標的血管血行再建、脳梗塞、輸血や入院期間の延長を要する出血の複合エンドポイントである。全フォローアップ期間は1年で、2017年に終了する。
結果
試験は、早期中止となった。プラスグレルとチカグレロルで、主要評価項目に有意差はなかった(4.0%vs4.1%、OR:0.98、95%CI:0.55−1.73)。主要評価項目の中で、どれも有意差はなかった。30日以内の副次評価項目(心血管死、非致死性心筋梗塞、脳梗塞)でも、プラスグレルとチカグレロルに有意差はなかった(2.7%vs2.5%、OR:1.06、95%CI:0.53-2.15)。
結論
こののプラスグレルとチカグレロルの比較試験は、PCIを施行したAMI急性期での梗塞イベントと出血イベントの予防において、一方の抗血小板薬はもう一方より、より有効もしくはより安全であるという仮説を支持しなかった。主要なアウトカムの発生率は似通っていたが、信頼区間は広かった。
◇この論文のPICOはなにか
P:急性心筋梗塞(STEMI、NSTEMI)
I/C:アスピリンに加え、プラスグレルまたはチカグレロルの内服
O:7日以内の全死亡、心筋梗塞の再発、脳梗塞、輸血や入院延長を要するような重大な出血、緊急標的血管再血行再建
プラスグレルは60mgでローディングして、維持容量は10mgを1日1回。76歳以上または60kg未満の場合は維持容量を5mgに減量する。
チカグレロルは180mgでローディングして、維持容量は90mgを1日2回。
inclusion criteria:緊急CAGの適応である症例
exclusion criteria:脳梗塞の既往、6ヶ月以内の重大な出血、長期の抗凝固療法を必要とする症例、クロピドグレル300mg以上の内服をしている症例、その他の抗血小板薬の内服(アスピリンと低容量クロピドグレルを除く)、76歳以上で体重60kg未満、中等度〜高度の肝障害、強力なCYP3A4阻害薬の使用、プラスグレルまたはチカグレロルに対するアレルギー
◇baselineは同等か
平均61歳で、3/4が男性。STEMIが90%で、他は脚ブロックとNSTEMI。他の抗血小板薬の使用率にも差がなく、PCIのアプローチも橈骨動脈が2/3とこれも差がない。
BMSとDESの使用率に差はないが、生体吸収性スキャフォールドはプラスグレル群で多い。PCI後のTIMIグレードは同じ。
◇結果
地域:チェコ共和国
登録期間:2013年4月〜2016年3月
観察期間:30日
無作為化:GraphPad scientific softwareを使用。封筒法。
盲検化:オープンラベル。解析者は盲検化されている。
必要症例数:各群1250例で、1130例が登録された時点で中間解析を行い、試験の早期中止を判断することになっている。
症例数:1230例
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:資金源はチャールズ大学のリサーチプログラムで直接の資金提供はないが、複数のauthorにCOIあり(アストラゼネカ、第一三共)。
◇批判的吟味
抗血小板作用による梗塞イベントの抑制と出血イベントの増加はトレードオフである。強力な抗血小板作用により、PCI後の梗塞イベント(ステント血栓症など)を抑えられたとしても、それにより重大な出血が増えてしまえば、そのメリットは相殺されてしまう。なので、梗塞イベントと出血イベントを複合して主要評価項目に設定することは妥当だし、いずれのイベントも急性期に多いので観察期間が1週間というのも妥当だろう。
ただ、この試験はfutilityで早期中止になっている。イベント数が少ないにもかかわらず。もともと2500例で予定されていて、3年間で半分以下しか集まっていないので、しょうがないのかもしれないけど、これだとどちらがいいとも言えない。
◇感想
プラスグレルとチカグレロルの有効性と安全性を直接比較したPRAGUE-18試験。主要評価項目(全死亡、心筋梗塞の再発、脳梗塞、輸血や入院延長を要するような重大な出血、緊急標的血管再血行再建)はどちらも4%程度だったが、イベント数が少なく、”両群とも同等に安全で有効”とは言えない結果だった。
ちなみにチカグレロルはPCI後の抗血小板薬として、2016年9月に日本でも承認されたが、PHILO試験でクロピドグレルと比較し出血を増やしたため、「アスピリンを含む抗血小板剤2剤併用療法が適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板剤の投与が困難な場合に限る」という文言が付いてしまっているようだ。