抗血栓療法

急性内科疾患での深部静脈血栓症予防 ベトリキサバンの効果

Extended Thromboprophylaxis with Betrixaban in Acutely Ill Medical Patients.
N Engl J Med. 2016 May 27. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
急性内科疾患の患者は、長期にわたり静脈血栓症のリスクにさらされている。

方法
急性内科疾患で入院した患者を、エノキサパリン皮下注+ベトリキサバンのプラセボの内服(エノキサパリン群)と、エノキサパリンのプラセボの皮下注+ベトリキサバン内服(ベトリキサバン群)の2群に無作為に割り付けた。エノキサパリン、またはそのプラセボの投与期間は10±4日、実薬の投与量は40mg1日1回とした。また、ベトリキサバン、またはそのプラセボの投与期間は35−42日で、実薬の投与量は80mg1日1回とした。事前に定めた3つのコホート、コホート1:Dダイマーの上昇した患者、コホート2:Dダイマーが上昇した患者または75歳以上の患者、コホート3:登録した全患者、について解析した。いずれの解析でも群間差がない場合、他の解析を考慮することを解析計画で明記した。有効性主要評価項目は無症候性の近位深部静脈血栓症(DVT)と症候性静脈血栓症である。安全性主要評価項目は大出血である。

結果
7513例を無作為化した。コホート1では、有効性主要評価項目は、ベトリキサバン群で6.9%、エノキサパリン群では8.5%であった(ベトリキサバン群の相対リスク0.81、95%CI:0.65−1.00、P=0.054)であった。コホート2では、ベトリキサバン群5.6%、エノキサパリン群7.1%で相対リスクは0.80(95%CI:0.66−0.98)であった。コホート3では、ベトリキサバン群5.3%、エノキサパリン群7.0%で相対リスクは0.76(95%CI:0.63−0.92)であった。全患者で大出血は、ベトリキサバン群で0.7%、エノキサパリン群で0.6%であった(相対リスク1.19、95%CI:0.67−2.12)。

結論
Dダイマーが上昇した急性内科疾患患者では、期間を延長したベトリキサバン投与と、エノキサパリンの標準的なレジメンに有意差はなかった。しかしながら、事前に示した予備的な解析では、2つのより大きい集団でベトリキサバンのメリットが示された。

◯この論文のPICOはなにか
P:急性内科疾患で96時間以上入院している患者
I:エノキサパリンのプラセボの皮下注+ベトリキサバン内服(ベトリキサバン群)
C:エノキサパリン皮下注+ベトリキサバンのプラセボの内服(エノキサパリン群)
O:有効性主要評価項目は、32−47日目に認められた無症候性近位部深部静脈血栓症、1−42日目に起こった症候性の近位部または遠位部深部静脈血栓症、症候性肺血栓塞栓症、静脈血栓症による死亡の複合エンドポイント。安全性主要評価項目は薬剤投与中止7日までに起こる大出血。

procedure:エノキサパリン、またはそのプラセボは、10±4日間投与し、実薬の投与量は40mg1日1回である。ベトリキサバン、またはそのプラセボは、35−42日間投与し、実薬の投与量は80mg1日1回(初回投与量は160mg)である。

inclusion criteria:40歳以上、診断された急性内科疾患(心不全、呼吸不全、感染症、リウマチ疾患、虚血性脳梗塞)

◯baselineは同等か
同等。
characteristics

◯結果
地域:35カ国、460施設
登録期間:2012年3月〜2015年11月
観察期間:47日間
無作為化:地域による置換ブロック法、層別化。interactive voice-response systemを用いる。
盲検化:患者、治療介入者、outcome評価者は盲検化されている。
必要症例数:本文に記載なし
症例数:7513例(ベトリキサバン群3759例、エノキサパリン群3754例)
追跡率:outcomeが不明な患者は、ベトリキサバン群では609例、エノキサパリン群では546例であった。
解析:1回でも薬剤を投与されたものを解析に含めるmITT解析(ベトリキサバン群3721例、エノキサパリン群3720例)
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result

◯感想/批判的吟味
・脱落が少なくない
・途中でプロトコールの変更あり(よりハイリスクな症例を集めるため、Dダイマー上昇、75歳以上を組み入れ基準に加えた)
・途中で解析方法の変更あり
・コホート1でベトリキサバンの優位性が認められればコホート2、3での優位性を解析をすると定められているが、そもそもコホート1でベトリキサバンの優位性が確認されていない(よりハイリスクな集団だとベトリキサバンの効果が認められやすいと考えた様。power不足だと考察されている)
・この試験ではエノキサパリンが用いられているが、日本では未分画ヘパリンを使用することが一般的。医療経済的にはどうなのか気になるところ。ヘパリンは安いし、ヘパリンを使用していてVTEで苦労したという経験はない(無症候性VTEに気づいていないだけかもしれないが)

ベトリキサバンは、急性内科疾患においてエノキサパリンよりもVTE予防効果に優れる。アピキサバン(ADOPT試験)やリバロキサバン(MAGELLAN試験)では、エノキサパリン標準療法よりも有意に大出血を増やしたが、ベトリキサバンでは大出血の有意な増加はなかった。