心臓手術

左冠動脈主幹部病変 5年間のMACCEはCABGよりもPCIで多い

Percutaneous coronary angioplasty versus coronary artery bypass grafting in treatment of unprotected left main stenosis (NOBLE): a prospective, randomised, open-label, non-inferiority trial.
Lancet. 2016 Oct 31. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
冠動脈バイパス術(CABG)は左冠動脈主幹部病変の標準的治療であるが、経費的冠動脈インターベンション(PCI)での治療も増えている。我々は、左冠動脈主幹部病変でPCIとCABGを比較した。

方法
前向き、無作為化、オープンラベル、非劣性試験である。北欧36施設で左冠動脈主幹部病変を有する患者を登録し、PCIとCABGに1:1に無作為に割り付けた。安定狭心症、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)を対象とし、24時間以内のST上昇型心筋梗塞(STEMI)、1年以内の生命予後は除外した。主要評価項目はmajor adverse cardiac or cerebrovascular events(MACCE)で、全死亡、手技に関連していない心筋梗塞、再血行再建、脳梗塞の複合エンドポイントである。5年間のフォローアップで、ハザード比の95%信頼区間が1.35を超えない場合に、PCIはCABGに対し非劣性とし、ITT解析を行った。

結果
2008年12月9日から2015年1月21日までに、1201例をPCIとCABGに無作為に割り付けた。PCI群598例、CABG群603例で、両群とも592例をITT解析に組み入れた。5年間のMACCEは、PCI群で29%(121イベント)、CABG群で19%(81イベント)、HR1.48(95%CI1.11-1.96)で、非劣性の上限を超えており、CABGはPCIと比較し有意にMACCEの発症が低かった(P=0.0066)。as treatment解析では、28%vs19%、HR1.55(95%CI1.18-2.04)であった。5年間の全死亡は、12%vs9%、HR1.07(95%CI0.67-1.72)、5年間の心筋梗塞は、7%vs2%、HR2.88(95%CI1.40-5.90)、5年間の再血行再建は、16%vs10%、HR1.50(95%CI1.04-2.17)、脳梗塞は5%vs2%、HR2.25(95%CI0.93-5.48)であった。

結論
これらの結果から、左冠動脈主幹部病変の治療はPCIよりCABGがベターであると考えられる。

◇この論文のPICOはなにか
P:左冠動脈主幹部病変
I:PCI
C:CABG
O:MACCE(全死亡、手技に関連していない心筋梗塞、再血行再建、脳梗塞の複合エンドポイント)

inclusion criteria:安定狭心症、不安定狭心症、NSTEMI、左冠動脈主幹部に50%以上の狭窄があること、FFR0.80以下であること、その他の病変が複雑でなく3つ以下であること(複雑病変とは、CTO、2stent techniqueが必要な病変、石灰化病変、屈曲病変である)

exclusion criteria:24時間以内のSTEMI、1年以内の生命予後

◇baselineは同等か
baseline
同等。平均年齢66歳、女性は20%、DMが15%。Syntaxスコアは22±8なので、大部分はlowとintermediateで、80%でbifurcationを絡む。

◇結果
地域:北欧(ラトビア、エストニア、リトアニア、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、英国、デンマーク)
登録期間:2008年12月9日〜2015年1月21日
観察期間:4.1年(中央値、四分位範囲3.0−5.0)
無作為化:web-based computer randomisation systemを用いている。permutated block with stratification。
盲検化:オープンラベル。
必要症例数:1200例(2年間のフォローアップでMACCEがPCI群で30%、CABG群で23%、非劣性マージン1.35として算出)
症例数:1201例
追跡率:試験デザインとしては2年間なので、そこまでは約90%と良いが、今回の5年間のフォローアップデータは40%弱の追跡率になっている。
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Biosensors社)

PCIに関して。
88%がbifurcationを絡んでステントを留置されているが、KBTが行われたのは55%。35%が2ステント。第一世代DESは11%で使用されている。IVUSが使用されたのは、preで47%、postで74%と低い。

CABGに関して。
84%がon-pumpで行われている。LADに動脈グラフトを使用したのは93%で、内胸動脈は86%とちょっと低い。

result

◇批判的吟味
・追跡率が低すぎるので、無作為化は維持できていないと考えられる。
・動脈グラフト・内胸動脈の使用率が少し低いので、長期的なグラフト開存率は低くなるはず。
・静脈グラフトは10年で半分ぐらいの開存率なので、これからCABG群で再血行再建が増えてくるかも。
・ほとんどon-pumpなので、周術期の脳梗塞はoff-pumpより高いはず。
・IVUS使用率、KBT施行率が低く、再血行再建を増やす方向に働くかも。
・脳梗塞がPCIで有意に高くなっている理由がわからない。

◇感想
左冠動脈主幹部病変にPCIをやるか、CABGをやるかで比較した試験。追跡率が40%と低いので内的妥当性は微妙だけど、5年間のフォローアップで、全死亡は変わらないが、心筋梗塞は約3倍、再血行再建は1.5倍、PCIで多くなってしまう。

そりゃそうだろうなという結果でした。ただ、追跡率が低かったり、PCIの手技が日本で行われるような手技ではなかったり、on-pumpCABGが多かったりと、日本の実情とは異なる印象でした。

Syntax試験とは異なり、PCI群でSyntaxスコアとイベントに関連はなかった様です。感覚的には、病変の複雑性が増せばイベント発症率は上がりそうなので、これも追跡率が低いことと関連があるのかもしれません。