虚血性心疾患

冠動脈疾患のスクリーニング 冠動脈CTか機能的検査か PROMISE試験

Outcomes of anatomical versus functional testing for coronary artery disease.
N Engl J Med. 2015 Apr 2;372(14):1291-300.

《要約》
背景
有症候性の冠動脈疾患の患者は多く、診断的検査で評価されるが、治療指針を決めるための無作為化試験のデータは限られている。

方法
有症候性の患者10003例を、CT血管造影(CTA)による初期解剖学的検査と機能的検査(運動負荷心電図、各医学負荷検査、負荷エコー)に割り付けた。主要評価項目は死亡、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、検査による大きな合併症である。副次評価項目は心臓カテーテル検査で閉塞性CADを認めないことと放射線被曝である。

結果
平均年齢は60.8±8.3歳、52.7%が女性、87.7%が労作時の共通や呼吸困難がある。閉塞性冠動脈疾患の平均検査前尤度比は53.3±21.4%であった。25ヶ月(中央値)のフォローアップ期間を通して、主要評価項目はCTA群で164/4996例(3.3%)、機能的検査群で151/5007例(3.0%)であった(調整後HR:1.04、95%CI:0.83−1.29)。機能的検査群よりCTA群で、カテーテル検査で非閉塞性CADを認めることが多かったが(3.4% vs 4.3%)、無作為化から90日以内に冠動脈造影検査(CAG)を行う患者はCTA群で多かった(12.2% vs 8.1%)。累積的放射線被曝の中央値はCTA群で少なかったが(10.0mSv vs 11.3mSv)、機能的検査群では32.6%が全く被曝しなかったため、全体的な被曝はCTA群で高かった(平均、12.0mSv vs 10.1mSv, P<0.001)。

結論
CADを疑う症状がある患者では、初期のCTAは機能的検査と比較し、2年間のフォローアップ期間で臨床的なアウトカムを改善しなかった。

◯この論文のPICOはなにか
P:有症候性CAD
I:CTAによる初期評価(CTA群)
C:運動負荷心電図検査、核医学検査、負荷心エコー検査による初期評価(機能的検査群)
O:死亡、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、検査による大きな合併症

inclusion criteria:非緊急のCADであること、非侵襲的な検査が必要であると臨床医が判断した者、54歳以上の男性、45−54歳の男性で冠動脈危険因子(糖尿病、末梢動脈疾患、脳血管疾患、喫煙者、高血圧、高脂血症)を有する、64歳以上の女性、50−64歳の女性で冠危険因子をひとつ以上有する
exclusion criteria:不安定な血行動態や不整脈によりACSの評価が必要な者、CADの既往、12ヶ月以内にCADの評価がされた者、臨床的に有意なうっ血性心疾患・弁膜症・心筋症

◯baselineは同等か
同等。
characteristics

◯結果
地域:北米、193施設
登録期間:2010年7月27日〜2013年9月19日
観察期間:25ヶ月(中央値)
無作為化:層別化した上で無作為化されているが、その方法についての記載はない。
盲検化:open-label
必要症例数:10000例(2.5年で機能的検査群のイベント発生率が8%、CTAによる相対リスク低下20%、power90%、αlevel0.05)
症例数:10003例(CTA群:4996例、機能的検査群:5007例)、機能的検査群(核医学検査67.5%、負荷心エコー検査22.4%、負荷心電図検査10.2%)
追跡率:CTA群4750例(95.1%)、機能的検査群4600例(91.9%)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし
予算の都合でプロトコールの変更が1度行なわれている。
result
(tableはすべて本文から引用)

CTA群 vs 機能的検査群
90日以内のCAG:609/4669例(12.2%) vs 406/5007例(8.1%)
そのうち、非閉塞性CADは、170/609例(27.9%)、213/406例(52.5%)

90日以内の血行再建:311/4996例(6.2%) vs 158/5007例(3.2%)、P<0.001
そのうち、CABGが行われたのはCTA群72例、機能的検査群38例

◯感想/批判的吟味
冠動脈疾患を疑う患者のスクリーニングとして、CTAでも核医学などの機能的検査でも、アウトカムは変わらないという結果。そして、初期検査でCTAを行った場合、放射線被曝は増える。

症例数としては10000例の大規模な試験だが、実際に有意な冠動脈疾患を有する症例はそのうちの数%であり、心血管イベントを評価するには2年という期間だと短いのではないかと思う。

CTAは感度が高い検査で、この試験でもCAG・血行再建まで行った症例はCTA群で有意に多い。baselineのcharacteristicsに群間差はないので、機能的検査群で偽陰性になっている症例が少なからずあるということだろう。有意な冠動脈疾患がありながら見逃されている症例がイベントに結びつきやすいわけで、それがイベント発症するにはもう少し期間が必要だろう。

ただ、10000例という大規模な試験で臨床的なアウトカムに差はなかったわけで、実臨床に影響を及ぼすほどの差はないのかもしれない。