Reduction in cardiovascular events after vascular surgery with atorvastatin: a randomized trial.
J Vasc Surg. 2004 ;39:967-75
AHAの非心臓手術のガイドライン(2014年)では、血管手術を行う際にスタチンを開始することはreasonableだとして、classⅡaになっており、その根拠になっている試験である。
背景
血管手術後6ヶ月間の心血管イベントに対するアトルバスタチンの効果を評価するため、前向き、無作為化、プラセボ対照、二重盲検試験を行った。心血管合併症は、血管手術において最も重大な死因である。スタチン療法は、冠動脈プラークを安定させることによって周術期の心血管イベントを抑制するかもしれない。
方法
血清コレステロール値に関わらず、100例の患者をアトルバスタチン20mgとプラセボの投与の2群に無作為に割り付けた。血管手術は無作為化が行われた後、平均30日で施行され、6ヶ月以上フォローアップを行った。心血管イベントは心臓死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症、脳梗塞である。
結果
50例にアトルバスタチンを投与し、50例にプラセボを投与した。6ヶ月のフォローアップ期間中、アトルバスタチン群で4例、プラセボ群で13例の計17例にイベントが発生した。プラセボ群ではアトルバスタチン群の3倍、心イベントが発生していた(8.0%vs26.0%, P=0.031)。各群のイベントリスクは、event-free survivalとしてKaplan-Meier法で比較した。アトルバスチン群ではプラセボ群と比較し、血管手術後6ヶ月間の心イベントを有意に減少させていた(P=0.018)。
結論
アトルバスタチンの短期間の投与は、血管手術後の重大な心血管イベントは有意に抑制する。
◯この論文のPICOはなにか
P:血管手術(大動脈、大腿膝窩、頚動脈)
I:アトルバスタチン20mgを内服(アトルバスタチン群)
C:プラセボの内服(プラセボ群)
O:6ヶ月間の心臓死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症、脳梗塞の複合エンドポイント
exclusion criteria:スタチン禁忌症例、高度肝不全/腎不全(Cr>2.0mg/dl)、妊娠、授乳婦、高脂血症治療薬の使用中、亜急性の心血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症)、重篤な感染症、HIV感染、悪性腫瘍
手順:ランダム化の後、アトルバスタチン20mg、もしくはプラセボを45日間内服し、手術はその期間内で、かつ内服開始2週間以降に行う。手術や麻酔の方法は、実際にそれを行う医師に一任。術後1日目には6時間おきにCK/CK−MBを測定する。心電図とトロポニンは術後7日目まで毎日測定する。神経学的診察を毎日行い、虚血性脳梗塞を疑えば、画像診断と神経内科医にコンサルトする。
◯ランダム化されているか
コンピュータアルゴリズムを使用しランダム化する。
◯baselineは同等か
同等。以下、ざっくりと。
年齢65際、DM18%、虚血性心疾患の既往40%、うっ血性心不全10%、アスピリンの内服40%、大動脈手術が半分。
◯症例数は十分か
心血管イベントが22%で起こり、アトルバスタチンにより1%に低下すると仮定し(1%はあり得ないので、これは11%の間違いかもしれない)、power80%、αlevel0.05として、必要症例数は90例と算出されている。アトルバスタチン群50例、プラセボ群50例の計100例がランダム化されている。
◯盲検化されているか
患者、治療介入者は盲検化されている。解析者も盲検化されている。
◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
ITT解析。追跡率100%。
◯感想/批判的吟味
・単施設
・小規模
・複合エンドポイントで有意差があるが、内訳をみるとサンプルサイズが小さいためか、いずれも有意差は付いていない。
・非致死的心筋梗塞も有意差がついていないが、減らす傾向にある。
血管手術施行前にスタチンを導入することで、周術期の心血管イベントが抑制された。内皮機能改善、プラーク安定化、抗炎症作用など、スタチンのLDLコレステロール低下作用以外の効果がアウトカムを改善した可能性がある。