Five-year follow-up of the Medicine, Angioplasty, or Surgery Study (MASS II): a randomized controlled clinical trial of 3 therapeutic strategies for multivessel coronary artery disease.
Circulation. 2007;115:1082-1089
背景
左心機能の保たれた多枝病変の安定狭心症に対して、ルーチンにCABGやPCIがなされているが、薬物療法より優れているという結論的なエビデンスはない。
方法・結果
primary endpointは、死亡、Q波梗塞、血行再建を要する難治性狭心症とした。611例をCABG群203例、PCI群205例、薬物療法群203例に無作為化し、primary endpointがCABG群21.2%、PCI群32.7%、薬物療法群36%であった(P=0.0026)。死亡については、すべての群で統計学的有意差はなかった。再血行再建は、薬物療法群9.4%、PCI群11.2%であったが、CABG群では3.9%であった(P=0.021)。さらに、非致死的心筋梗塞は、薬物療法群15.3%、PCI群11.2%、CABG群8.3%であった(P<0.001)。PCI群と薬物療法群の比較では、primary endpointに統計学的有意差はなかったが(相対リスク0.93、95%CI:0.67−1.30)、CABG群と薬物療法群の比較では、保護的効果があった(相対リスク0.53、95%CI:0.36−0.77)。
結論
3群とも死亡率は比較的低かった。薬物療法は、長期のイベントや血行再建がPCI群のそれと有意差がなかった。多枝病変を有する安定狭心症において、CABGは薬物療法と比較し5年間のprimary endpointを有意に44%減少させた。
◯この論文のPICOはなにか
P:多枝病変を有する安定狭心症
I/C:薬物療法群、PCI群、CABG群の3群に割り付ける
O:primary endpointは死亡、Q波梗塞、血行再建を要する難治性狭心症の複合エンドポイント
inclusion criteria:近位部の冠動脈多枝病変(造影上70%以上の狭窄)、負荷試驗陽性、CABG/PCIそれぞれの術者が治療可能と判断したもの。
exclusion criteria:難治性狭心症、AMI、心室瘤、LVEF<40%、PCI/CABGの既往、1枝病変、うっ血性心不全、弁膜症、心筋症、50%以上の狭窄を有するLM病変、重篤な併存疾患、妊娠またはその疑い。
方法:硝酸薬、アスピリン、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、スタチンなどを用いて至適薬物療法を行う。PCIはランダム化から3週間以内に行う。PCIは標準的なprotocolで行い、残存する狭窄が50%未満でTIMI3であれば成功とする。CABGはランダム化から12週間以内に行う。標準的なテクニックで、大伏在静脈、内胸動脈、橈骨動脈、上腹部の動脈などをグラフトとして使用する。off−pumpCABGは行わない。フォローアップは6ヶ月おきに5年間行う。トレッドミル検査を試驗開始時と毎年施行する。
難治性狭心症の定義:十分な薬物療法でも症状が取れないもの
心筋梗塞の定義:2誘導以上で新たな異常Q波の出現、または胸部症状とCK−MBが正常上限の3倍以上上昇すること。
◯ランダム化されているか
方法についての記載はない。
◯baselineは同等か
群間差があるのは、喫煙率、OMI、狭心症CCS分類。PCI群で喫煙者の割合が少なく、OMIが多い。狭心症CCS分類Ⅱ/Ⅲが占める割合は薬物療法具とPCI群で少ない
以下、ざっくりと。
年齢60歳、男性70%、糖尿病30%、トレッドミル検査陽性40%、LVEF67%、2枝病変:3枝病変=2:3、LADに病変を有するものは90%。
◯症例数は十分か
過去に行われた試驗をもとに各群41イベントの発生が必要と仮定し、αlevel0.05、power80%として、必要症例数は各群191例ずつと算出されている。リスク減少がどの程度かの記載はない。CABG群203例、PCI群205例、薬物療法群203例の計611例がランダム化されている。
◯盲検化されているか
試驗の性質上、患者・治療介入者は盲検化できない。outcome評価者や解析者についての記載はなさそう。死亡や心筋梗塞の定義は盲検化されていなくても影響はないが、難治性狭心症は盲検化の有無により影響あり。
◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
ITT解析。
◯結果
PCI群とCABG群の院内死亡率はいずれも約2.5%。
薬物療法群で、フォローアップ期間中(5年)CABGが行われたのは31例(15.3%)、PCIが行われたのは18例(8.9%)であった。
CABG群で予定通りCABGが行われたのは198例(98%)であった。バイパス数は平均3.3本で、予定通りグラフトできたのは74%であった。グラフトは、内胸動脈92%、橈骨動脈36%、上腹部の動脈10%であった。
PCI群で予定通りPCIが行われたのは194例(95%)であった。6例(3%)でPCIではなくCABGが行われた。使用されたステントは平均で2.1本で、完全血行再建がなされたのは73%、PCIの成功は92%であった。フォローアップ期間中(5年間)19例(9.3%)でCABGが行われた。
薬物療法群vsPCI群vsCABG群
primary endpoint:36% vs 32.7 %vs 21.2%、P=0.0026
死亡:12.3% vs 11.6% vs 7.9%, P=0.631
再血行再建:9.4% vs 11.2% vs 3.9%, P=0.021
非致死的心筋梗塞:15.3% vs 11.2% vs 8.3%, P<0.001
◯感想/批判的吟味
心機能が保たれた安定狭心症で、かつ左主幹部病変は除かれている。また、PCIはおそらくBMSが使用されている。割付通りに治療された割合が高く追跡率もよい試験である。
Syntax試験の3年での中間報告がなされたのが2011年なので、それより前の話。この時点では、安定狭心症に対する血行再建については議論が分かれるところであった。CABG群で死亡が少ないが有意差はついておらず、これはサンプルサイズが小さいためと考えられる。