虚血性心疾患

CIRCUS試験のエディトリアル 急性心筋梗塞の再灌流障害

Targeting Myocardial Reperfusion Injury–The Search Continues.
N Engl J Med. 2015 Sep 10;373(11):1073-5

PCIはST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の最も効果的な治療だが、心筋梗塞後の心不全の抑制のため梗塞サイズの減少や左室機能の維持が必要である。

再灌流障害は、再灌流に伴いmitochondrial permeability transition pore(MPTP)が開大することで引き起こされる。再灌流障害は、最終的な梗塞巣の50%を占めると考えられている。STEMIに対するPCI後の再灌流障害を予防する効果的な方法は、今のところない。

シクロスポリンによりMPTP開大を抑制し、梗塞サイズが縮小することが動物実験で示された。再灌流前にシクロスポリンを投与することで、臨床的なアウトカムを改善できるか検証された。

CIRCUS試験では、STEMI970例を対象にprimaryPCIの再灌流の際に、シクロスポリンを投与する群とプラセボを投与する群に割り付け、1年後の全死亡、心不全増悪、心不全による入院、左室拡張末期容積の15%以上の増加の複合エンドポイントを評価した。そして、シクロスポリンとプラセボに効果の差はなかった。

なぜ、シクロスポリンが再灌流障害の抑制に効果を示さなかったか。

ひとつめは、今までのシクロスポリンのデータすべてが再灌流障害を抑制したわけではないこと。ふたつめは、左室拡張期末期容積をエンドポイントに含めており、これはサロゲートマーカであり、発生率も高いため、サンプルサイズが足りないこと。

最後は、シクロスポリンがオリジナルの試験で用いられたSandimmuneではなく、CicloMulsionという脂質製剤であったこと。CicloMulsionはSandimmuneと似ているが、CicloMulsionが心筋梗塞サイズを減少させたというデータはない。

CIRCUS試験で使用されたシクロスポリンが心筋再灌流障害に効果がないかもしれないだけで、再灌流障害の存在やその臨床的重要性が否定されたわけではない。