心不全

CVD-REAL SGLT2阻害薬のリアルワールドデータ

EMPA-REG試験で、冠動脈疾患の既往がある患者を対象に、エンパグリフロジン(ジャディアンス)はプラセボと比較し、14%の心血管イベント(心臓死、心筋梗塞、脳梗塞)の抑制効果を認めた。また、心不全入院を35%、心臓死を38%低下させた(1)。

サブ解析では、心不全の既往のないサブグループでも、心不全入院、全死亡、心血管死の有意な低下が認められている(2)。

ジャディアンス以外のSGLT2阻害薬や、冠動脈疾患の既往がない患者でも、同様の効果があるかは明らかではない。

Lower Risk of Heart Failure and Death in Patients Initiated on SGLT-2 Inhibitors Versus Other Glucose-Lowering Drugs: The CVD-REAL Study.
Circulation. 2017 May 18. [Epub ahead of print]

◇論文のPICOはなにか
P:2型糖尿病
E:新規のSGLT2阻害薬の追加
C:新規の血糖降下薬(SGLT2阻害薬以外)の追加
O:心不全入院

6ヶ国のhealth recordを解析。

secondary endpointは、全死亡、心不全入院+全死亡(ドイツは死亡データがないため除外)。

観察期間は、新規の糖尿病薬が処方されてから、その治療の終了まで(on treatment解析)。

◇患者背景

(本文から引用)
プロペンシティスコアがマッチした集団。
87%で心筋梗塞や心不全の既往がない。IDDMが30%。
アウトカムに影響を与えうる薬剤であるチアゾリジンや利尿薬を含め、内服薬に差はない。

SGLT2阻害薬の内訳は、
○心不全入院
カナブリフロジン(カナグル) 53%
ダパグリフロジン(フォシーガ) 42%
エンパグリフロジン(ジャディアンス) 5%

○全死亡
カナブリフロジン(カナグル) 42%
ダパグリフロジン(フォシーガ) 51%
エンパグリフロジン(ジャディアンス) 7%

◇結果
○SGLT2阻害薬追加群
心不全入院:0.51/100人年
全死亡:0.87/100人年
心不全入院または全死亡:1.38/100人年

心不全入院(On Treatment解析)

(本文から引用)

心不全入院(ITT解析)

(本文から引用)

全死亡(On Treatment解析)

(本文から引用)

心不全入院、または全死亡(On Treatment解析)

(本文から引用)

◇感想
2型糖尿病で、経口血糖降下薬やインスリンなどそれなりに投与していて、かつ心血管疾患の既往がない人がほとんどという集団で、新規のSGLT2阻害薬の追加は、それ以外の血糖降下薬の追加と比べ、心不全入院と全死亡を低下させた。

心不全入院は39%、全死亡は49%のリスク減少。

心不全の発症率は、EMPA-REG試験のサブ解析とほとんど変わらず、全死亡はEMPA-REG試験が二次予防を対象にしているためか、あちらの方が2倍ぐらい多い。

このCVD-REALのデータは、EMPA-REG試験のデータがリアルワールドでも確認できたとか、ジャディアンスだけじゃなく、カナグルやフォシーガでも心血管イベント抑制効果が確認できた、と喧伝されそうです。

個人的には、全死亡が半分になるというのは、すごく出来すぎているように思うけど、発生頻度が少ないので処方していても実感はできそうにない。死亡率が半分になるというのは、それが事実なら夢のような薬。

心不全入院だけでなく全死亡も減らしているので、これは単なる利尿効果では説明がつかないので、他の要因(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系を賦活させないとか、ケトンの産生などの説明を耳にするが)が関与していると考えればいいのか。

EMPA-REG試験で増加傾向だった脳梗塞がどうなのかとか、安全性のデータについては、この論文からはわからないので要注意。

(1)N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2117-28.
(2)Eur Heart J. 2016 May 14;37(19):1526-34.