STEMIにおいて、再還流障害は最終的な心筋ダメージの50%を占めるとの報告がある(1)。再還流障害を抑えようと様々な試みがなされているが、未だ十分な効果を出したものはない。
モルヒネは交感神経を抑制することで心筋酸素需要を減らし、動物実験では心筋保護効果が確認されている。この試験はモルヒネが再還流障害を抑制するかどうか検証した初めてのRCTである。
Cardioprotective Effects of Intracoronary Morphine in ST-Segment Elevation Myocardial Infarction Patients Undergoing Primary Percutaneous Coronary Intervention: A Prospective, Randomized Trial.
J Am Heart Assoc. 2017 Apr 3;6(4). pii: e005426
◇この論文のPICOはなにか
P:STEMI
I:モルヒネ3mg冠注
C:生食3ml冠注
O:梗塞サイズ(心臓MRIで計測)
secondary endpointは、MV0(microvascular obstruction)の範囲、心筋サルベージインデックス、治療後のTIMI flow grade、peakCK-MBなど
exclusion criteria:心原性ショック、VT/VF、呼吸不全、OMIなど
手順:まず、STEMIをチカグレロルとクロピドグレルのどちらを投与するかランダム化する。次に、モルヒネを冠注する群と、生食を冠注する群にランダム化する。モルヒネまたは生食の冠注は再還流したあと速やかに行う。梗塞サイズの評価は心臓MRI(CMR)で行い、撮像はPCIから5日以内に行う。
◇試験の概要
地域:韓国
盲検化:オープンラベル
必要症例数:90例
症例数:91例(モルヒネ群45例、生食群46例)
追跡率:87.9%(80/91例、CMR拒否、同意の撤回などで11例が脱落)
解析:modeified ITT解析?
スポンサー:企業の関与なし
◇患者背景
(本文から引用)
基礎疾患や採血のデータに差はない。Symptom to balloon time, door to balloon time、責任血管、最初のTIMI flow gradeなど、梗塞サイズに影響を与える要因についても差はなかった。
◇結果
(本文から引用)
primary endpointである梗塞サイズに差はなかった。その他、心筋サルベージインデックスやMVOについても差はなかった。
◇感想
モルヒネを冠注しても、再還流障害は抑えられなかった。
モルヒネを冠注するタイミングは遅すぎないか、ガイディングカテーテルからの冠注で梗塞巣までモルヒネが十分届くのか、冠注するのは3mgで十分なのか、モルヒネはP2Y12阻害薬の吸収を抑制するので血小板機能はどうなのか、などがDiscussionには書かれていた。
静注するより冠注した方が痛みが取れやすいのだろうか。梗塞サイズが変わらなくても、痛みをとるのに有効ならやってもいいのかも。安全にできるようだし。
(1)Eur Heart J 2013;34:1714-1724