冠動脈バイパス術において、両側内胸動脈と片側内胸動脈の使用を比較したART試験では、5年時点での死亡、心筋梗塞、脳梗塞に差はなかった(1)。
しかし、今までの観察研究では、両側内胸動脈(BITA)を使用した場合、片側のみ使用した場合と比べ、予後が改善することが多く報告されている。15000例、観察期間9年以上の結果を統合したメタ解析でも、2本の動脈グラフトを使用することの予後改善効果が示されている(2)。
ART試験では、片側内胸動脈群で橈骨動脈の使用が23%あり、またBITA群では割付通りITAを両側使用できたのは83%であったため、それが結果に影響を与えたかもしれない。
このように、2本の動脈グラフトを使用することのsurvival benefitは明確な結論が出ていない現状で、動脈グラフトを3本使用することのsurvival benefitについては、なおのこと明らかではない。
Three Arterial Grafts Improve Late Survival: A Meta-Analysis of Propensity-Matched Studies.
Circulation. 2017 Mar 14;135(11):1036-1044.
◇論文のPICOはなにか
P:初回のCABGを行う冠動脈疾患患者
I:3本の動脈グラフトを使用
C:2本の動脈グラフトを使用
O:長期的な死亡率(プロペンシティスコアマッチ)
secondary endpoint:院内死亡率/30日死亡率(プロペンシティスコアマッチ)、長期的な死亡率(プロペンシティスコアマッチなし)
観察期間は37.2−196.8ヶ月で、平均で6.5年ぐらいフォローされていて、各研究のフォローアップ率も高い。
(本文から引用)
・I²統計量
プロペンシティマッチ→58.8%
プロペンシティマッチなし→91.3%
院内死亡率/30日死亡率→85.6%
出版バイアスなし(Egger’s test)
(本文から引用)
長期的な死亡率は、ハザード比0.80(95%CI:0.75-0.87)と有意に減少。
◇感想
CABGで動脈グラフトを3本使用した場合、2本使用した場合と比べ、院内死亡率・30日死亡率を上昇させず、長期的な生命予後が改善するという結果。
3本の動脈グラフトは、BITAと橈骨動脈の組み合わせが多数を占めていた。
たしかに静脈グラフトを使用するより、動脈グラフトを使用した方が長期の開存率は高いので、理論上は生命予後改善効果がありそう。ただ、動脈グラフト1本と2本を比べた場合より、生命予後へのインパクトは弱いだろう。
(1)N Engl J Med 2016;375:2540-2549
(2)Circulation. 2014;130:539-545