集中治療

重症患者のストレス潰瘍予防に、あえてPPIを投与しなくてもよい POP−UP試験

Pantoprazole or Placebo for Stress Ulcer Prophylaxis (POP-UP): Randomized Double-Blind Exploratory Study.
Crit Care Med. 2016 Oct;44(10):1842-50.

《要約》
目的
パントプラゾールは重症患者の消化管潰瘍予防によく使用される。しかしながら、プラセボと比較はなされておらず、パントプラゾールは有害である可能性がある。

デザイン
二重盲検無作為化試験

セッティング
外科内科混合のICU

患者
人工呼吸器管理を要し、経腸栄養を行っている重症患者

介入
プラセボもしくはパントプラゾール静注

結果
主要評価項目は、、臨床的に有意な消化管出血、感染性の人工呼吸器関連合併症もしくは肺炎、クロストリジウム・ディフィシル感染症である。臨床的に有意な消化管出血は0例であった。感染性の人工呼吸器合併症もしくは肺炎は3例(プラセボ群1例、PPI群2例)であった。クロストリジウム・ディフィシル感染症は1例(プラセボ群0例、PPI群1例)であった。パントプラゾールは明らかな出血とも関連がなく(プラセボ群6例、PPI群3例、P=0.50)、血中ヘモグリオビン濃度とも関連がなかった(P=0.66)。

結論
人工呼吸器管理を要し、経腸栄養を行っている重症患者において、消化管出血予防のためのパントプラゾールの投与は、有用でも有害でもなかった。その有効性、有害性については、さらなる検証が必要である。

◇この論文のPICOはなにか
P:人工呼吸器管理を要し、経腸栄養を行っている重症患者
I:パントプラゾール40mgの静注(PPI群)
C:生食の静注(プラセボ群)
O:臨床的に有意な消化管出血、感染性の人工呼吸器関連合併症もしくは肺炎、クロストリジウム・ディフィシル感染症の複合エンドポイント

inclusion criteria:24時間以上人工呼吸器を要し、48時間以内に経腸栄養を開始する患者
exclusion criteria:入院前の制酸薬の使用、消化管出血での入院、胃潰瘍の既往、プレドニゾロン100mg/日以上の使用、上部消化管の手術・心臓手術のための入院、妊娠、エホバの証人の信者、割り付けられた薬剤が36時間以内に投与できない患者、緩和ケア、ICU再入室

◇baselineは同等か
characteristics
processes
同等。50歳ちょっとと比較的若くて、2/3が男性。カテコラミンは半分で使用されている。クロストリジウム・ディフィシル感染症の既往はない。薬剤が投与されたのは3回。経腸栄養を受けた割合・開始までの時間・投与量なども差がない。抗生剤についても差はない。

◇結果
地域:南オーストラリア
登録期間:2014年1月28日〜2015年1月27日
観察期間:人工呼吸器離脱もしくは最大で14日
無作為化:方法についての記載なし
盲検化:患者、治療介入者、アウトカム評価者は盲検化されている
必要症例数:記載なし(この病院では24時間以上人工呼吸器管理を要する患者が年間600例いるので、登録期間は1年間で十分だろうと書かれてあるが、具体的な必要症例数については記載なし)
症例数:214例(PPI群106例、プラセボ群108例)
追跡率:100%
解析:ITT解析とPP解析
スポンサー:企業の関与はなさそう

◯臨床的に有意な消化管出血
プラセボ群0/108例、PPI群0/106例

◯感染性の人工呼吸器合併症もしくは肺炎
プラセボ群1/108例(0.9%、95%CI0.02−5.1)、PPI群2/106例(1,9%、95%CI0.2−5.1)

◯クロストリジウム・ディフィシル感染症
プラセボ群0/108例(97.5%CIの上限3.4)、PPI群1/106例(0.9%、97.5%CI0.02−5.1)

◇批判的吟味
・Nが少なく、イベント発生数が少ない。
・必要症例数についての記載がなく必要症例数を満たしているかどうかわからず、本当に差がないのかわからない。

◇感想
人工呼吸器を要するような重症な患者に、ストレス潰瘍の予防目的にPPIを投与することで、有害事象が抑えられるか検証したもの。出血や呼吸器感染・CDIをエンドポイントにして、その有益性・有害性を検証したものだが、N・イベント数が少なく、これだけでははっきりとした結論はでない。ただ、重症患者だからといって、ルーチンでPPIを投与する必要はないだろう。