集中治療

院内心停止患者には、低体温療法は有害かもしれない

Association Between Therapeutic Hypothermia and Survival After In-Hospital Cardiac Arrest
JAMA. 2016;316(13):1375-1382.

《要約》
重要性
低体温療法は、院外または院内心停止の患者に対して行われる。しかしながら、院内心停止に対する低体温療法の有効性を検証した無作為化試験はなく、有効性を比較したデータも限られている。

目的
院内心停止後の低体温療法と生存率の関連を評価すること。

デザイン、セッティング、患者
Get With the Guidelines-Resuscitation registryで、2002年3月1日から2014年12月31日までの間、米国の355施設で蘇生に成功した26183例を組み入れた。フォローアップは2015年2月4日までとした。

暴露
低体温療法

アウトカム
主要評価項目は院内生存率である。副次評価項目は神経学的に良好な転帰(Cerebral Performance Category score1または2)とした。プロペンシティスコアを用いて比較解析を行い、全患者、nonshockable(心静止、PEA), shockable(VT、VF)についてそれぞれ検討した。

結果
1568/26183例(6.0%)で低体温療法が施行された。そのうち1524例(平均年齢61.6±16.2歳、男性58.5%)が、低体温療法を施行していない患者(平均年齢62.2±17.5歳、男性57.1%)とマッチした。調整後、低体温療法は院内死亡率の低下と関連しており(27.4% vs 29.2%, RR0.88[95%CI0.80-0.97], risk difference-3.6%[95%CI-6.3%to-0.9%])、nonshockable(22.2% vs 24.5%, RR0.87[95%CI0.76-0.99], risk difference-3.2%[95%CI-6.2%to-0.3%])、shockable(41.3% vs 44.1%, RR0.90[95%CI0.77-1.05], risk difference-4.6%[95%CI-10.9%to1.7%])でも同様の傾向であった。低体温療法は神経学的に良好な転帰の減少とも関連があった(17.0% vs 20.5%, RR0.79[95%CI0.69-0.90], risk difference-4.4%[95%CI-6.8%to-2.0%])。

結論
院内心停止患者において、通常の治療と比べ低体温療法は、退院時生存率や神経学的に良好な転帰の減少と関連があった。無作為化試験により、院内心停止に対する低体温療法の有効性を評価する必要がある。

◇この論文のPICOは?
P:院内心停止
E:低体温療法を行う(低体温療法群)
C:低体温療法を行わない(非低体温療法群)
O:退院時生存率

◇デザイン、対象
・後ろ向きコホート
・プロペンシティスコアマッチ
・5238例(低体温療法群1524例と、プロペンシティスコアがマッチした非低体温療法群3714例)

characteristics
characteristics
ICUがメインで、循環器疾患が多い。

◇結果
result

◇批判的吟味
・予後が悪そうだから低体温療法を行うという、indication biasの可能性
・24時間以内に死亡した患者は感度解析から除外されているため、24時間以内に死亡することが予想される患者の割合が低体温療法群で少なかった可能性
・自己心拍再開時に挿管されていると意識レベルの評価ができないためで、昏睡の患者の割合が両群で異なっていた可能性
などが、低体温療法群の予後に影響を与える交絡因子として考察されている。

◇感想
今まで院内心停止への低体温療法の有効性を検証したRCTはない。いくつかの観察研究があり、低体温療法の有無で死亡率に差がないという結果になっているが、パワー不足である(サンプルサイズが大きいものでも、低体温療法200例程度)。低体温療法により死亡率が改善したというデータもあるが、プロペンシティスコアが不適切に導き出されていた。

このデータは、今までで最も大きなサンプルサイズのデータであるが、低体温療法は生存率と神経学的予後を悪化させるという結果であった。後ろ向きのデータなので、低体温療法と生存率・神経学的予後の因果関係は言えないため、今後RCTで検証してもらいたい。