集中治療

重症患者への酸素の過剰投与が死亡率を上昇させる Oyxgen-ICU試験

Effect of Conservative vs Conventional Oxygen Therapy on Mortality Among Patients in an Intensive Care UnitThe Oxygen-ICU Randomized Clinical Trial
JAMA. Published online October 5, 2016.

《要約》
重要性
不要な酸素療法の有害性についてのデータはあるが、重症患者はかなりの期間、高酸素血症に晒される。動脈酸素化をコントロールすることは合理的であるが、実臨床での有効性は確認されていない。

目的
控えめな酸素供給がICU患者のアウトカムを改善させるか評価する。

デザイン、セッティング、患者
Oxygen-ICU試験は、単施設、オープンラベル、無作為化試験である。2010年3月から2012年10月まで、イタリアのMondena University HospitalのICUに3日以上滞在することが予想されたすべての患者を組み入れた。計画されたサンプルサイズは660例であったが、登録困難のため480例で早期中止となった。

介入
患者を、PaO2:70-100mmHgもしくはSpO2:94-98%で維持する群(conservative群)と、PaO2を150mmHgまでもしくはSpO2:97−100%で維持する群(conservative群)の2群に無作為に割り付けた。

アウトカム
主要評価項目はICUでの死亡率である。副次評価項目は新たな臓器不全とICU入室48時間以降の感染症の発症である。

結果
434例を登録し、mITT解析を行った。平均PaO2値は、conventional群で有意に高かった(102mmHg vs 87mmHg, P<0.001)。死亡率はconservative群で有意に低かった。conservative群ではショック、肝不全、菌血症の発症が少なかった。

結論
ICUに72時間以上滞在する重症患者において、酸素投与を控えめにすることは従来の酸素療法よりICU死亡率を改善する。この試験は早期中止になったため、このアプローチの有用性を検証するには、さらに大規模な多施設試験が必要である。

◇この論文のPICOはなにか
P:ICUに72時間以上滞在することが予想される患者
I:PaO2:70-100mmHgもしくはSpO2:94-98%で維持する(conservative群)
C:PaO2を150mmHgまでもしくはSpO2:97−100%で維持する(conservative群)
O:ICUでの死亡率

inclusion criteria:18歳以上
exclusion criteria:ICU再入室、生命維持治療をやめることを決定した患者、免疫抑制状態または好中球減少、ほかの試験への登録、COPDの急性増悪、ARDS

◇baselineは同等か
同等
characteristics

◇結果
地域:イタリア
登録期間:2010年3月1日〜2012年10月30日
観察期間:conservative群で平均22日、conventional群で平均24日
無作為化:computerized random-number generatorによって1:1に割り付け。主治医は、患者を試験に組み入れたあと、封筒法(密閉され中は見えない)により割り付けを知らされる(隠匿化できている)。
盲検化:オープンラベル。アウトカム評価者、解析者の盲検化については記載がないが、死亡率なので盲検化の有無の影響はないと考えてよいだろう。
必要症例数:660例(ICU死亡率はconventional群で23%、conservative群で17%、αlevel0.05、power80%)
症例数:480例(マグニチュード5.9の地震が起こり、ICUは避難。病院の病床数も20−25%減少してしまったため、事前に計画はされていなかったが早期中止となった)
追跡率:conservative群216/236例(91.5%)、conventional群218/244例(89.3%)
解析:mITT解析
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result
事前に計画されていない早期中止の場合、P値がいくつになれば有意と判断してよいのかわからないが、ICU死亡率はP=0.01で、また院内死亡率はP=0.03でconservative群で低い。Mechanical ventilation-free hoursが低くなるのは、うなずける。高濃度酸素投与により、心拍出量が減ったり末梢血管抵抗が上昇したりするので、conventional群でショックや肝不全が多いのは、その結果なのかな・・・。

◇批判的吟味
・characteristicsをみると外科の患者さんが多く、循環器疾患は少なそう。
・事前に計画していない早期中止なので、P値がどれぐらいであれば有意と言っていいのかわからない。
・しかも、イベントの発生は両群の合計で69例と少ないので、αエラーの危険性があると思う。
・ただ、酸素毒性については今まで色々でていて、この結果には合点がいく。

◇感想
ICUに入るような重症患者では、酸素投与を控えめ(PaO2:70−100mmHg、SpO2:94−98%)にした方が、死亡率が低くなるという結果。しかも、8.6%の死亡率低下なので劇的と言っていいが、内的妥当性はちょっと微妙で過大評価の可能性があるので、これほどの効果があると期待しない方がいいだろう。

自分の酸素投与の方法としては、PaO2:80−100mmHg、SpO2:94−98%程度を目標としていたので、それはそのままで良さそう。