集中治療

ステロイドはショックに至っていない重症敗血症には無効 HYPRESS試験

Effect of Hydrocortisone on Development of Shock Among Patients With Severe SepsisThe HYPRESS Randomized Clinical Trial
JAMA. 2016 Oct 3. [Epub ahead of print]

《要約》
重要性
Surviving Sepsis Campaignでは、難治性敗血症性ショックにのみハイドロコルチゾンの投与が推奨されている。ショックではない重症敗血症に対するハイドロコルチゾンの有効性については議論がある。

目的
重症敗血症患者へのハイドロコルチゾン投与が敗血症性ショックへの進展を抑制できるか検証すること。

デザイン、セッティング、患者
二重盲検、無作為化試験を行った。登録期間は2009年1月13日から2013年8月27日までで、観察期間は180日で2014年2月23日までとした。ドイツ国内の34施設(大学病院、または市中病院)のICUで行い、380例のショックではない重症敗血症患者を組み入れた。

アウトカム
主要評価項目は14日以内の敗血症性ショックへの進展である。副次評価項目は敗血症性ショック発症までの時間、ICU死亡率、院内死亡率、180日時点での生存率、二次性感染症、ウィーニングの失敗、筋力低下、高血糖である。

結果
intention-to-treatment populationは353例で、男性が64.9%、平均年齢は65.0±14.4歳であった。敗血症性ショックは、ハイドロコルチゾン群で36/170例(21.2%)、プラセボ群で39/170例(22.9%)であった(difference:-1.8%, 95%CI:-10.7to7.2%)。敗血症性ショック発症までの時間、ICU死亡率、院内死亡率、28日・90日・180日の時点での死亡率も両群間で有意差はなかった。ハイドロコルチゾン群とプラセボ群では、二次性感染症が21.5%vs16.9%, ウィーニングの失敗が30.7%vs23.8%, 高血糖が90.9%vs81.5%であった。

結論
ショックになっていない重症感染症患者において、ハイドロコルチゾンは14日以内のショックのリスクを低下させず、これらの患者に対しハイドロコルチゾンを使用することは支持できない。

◇この論文のPICOはなにか
P:ショックに至っていない重症感染症患者
I:ハイドロコルチゾンの投与(ハイドロコルチゾン群)
C:プラセボの投与(プラセボ群)
O:14日以内の敗血症性ショックへの進展

ハイドロコルチゾンは最初に50mgボーラスし、その後5日間200mg/日持続静注する。6−7日目は100mg/日に、8−9日目は50mg/日に、10−11日目は25mg/日に減量する。

inclusion criteria:感染症の証拠があること、SIRSクライテリアを少なくとも2つ以上満たすこと、48時間以内に臓器不全の証拠があること
exclusion criteria:敗血症性ショック、18歳未満、ハイドロコルチゾンやマンニトール(プラセボ)への過敏症、他の疾患でハイドロコルチゾンを使用する患者

◇baselineは同等か
肺炎がプラセボ群で多いこと以外は同等。
characteristics

◇結果
地域:ドイツ
登録期間:2009年1月13日〜2013年8月27日
観察期間:180日
無作為化:施設と性別で層別化。internet-based computerized randomization。
盲検化:患者、治療介入者、アウトカム評価者、解析者、スポンサーはすべて盲検化されている。
必要症例数:380例(イベント発生率はプラセボ群で40%、ハイドロコルチゾンにより15%の絶対リスク低下、αlevel0.05、power0.8、ドロップアウト10%として算出)
症例数:380例(ハイドロコルチゾン群190例、プラセボ群190例)
追跡率:ハイドロコルチゾン群176/190例(92.6%)、プラセボ群177/190例(93.1%)
解析:mITT解析
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result
14日以内のショックへの進展は、プラセボ群で40%と想定されていたが、実際は22%と大幅に低い。ショックへの進展、死亡率、meanical vetilation-free time, RRT-free timeなどいずれも効果に差がない。せん妄は有意に増えている。

◇批判的吟味
・想定よりプラセボ群でprimary endpointの発生が低い。
・それによるpower不足の可能性はあるが、ハイドロコルチゾン群のイベント率もほぼ同じ。
・必要症例数に足りていて、追跡率もよいのに、primary endpointで有意差がないので、重症敗血症へのハイドロコルチゾンは、ショックへの進展を抑制できないと結論付けていいだろう。
・高血糖、せん妄はむしろ増える。

◇感想
重症敗血症に対しハイドロコルチゾンを投与しても、敗血症性ショックへの進展は抑制できないという結論。ステロイドは、ショックに至っていない敗血症や重篤ではない敗血症性ショックには効果は乏しい。重篤な敗血症性ショックにはステロイドを使ってもよいだろうというのが今のところのコンセンサスらしいが、重篤な患者がどのようなものかは明確にはなっていない様。Up−To-Dateには、輸液やカテコラミンを適切に投与しても1時間以上SBP<90mmHgが遷延する場合にはハイドロコルチゾン200−300mg/日の投与を勧めている。