人工呼吸器、ショック、敗血症などは消化管出血のリスクで、消化管出血は死亡のリスクになります。PPIによる消化管出血の予防効果に関するRCTのシステマティックレビューについては以前記事にしました。プラセボやH2ブロッカーに比べ消化管出血は抑えられるが、肺炎は増えるかもしれないという感じの結果でした。
重症患者のストレス潰瘍予防に最も効果が高いのはPPIだが、院内肺炎は増える
この前、NEJMにSUP-ICU試験という、PPIの予防投与についてのRCTが出ました。
Pantoprazole in Patients at Risk for Gastrointestinal Bleeding in the ICU.
N Engl J Med. 2018 Oct 24. doi: 10.1056/NEJMoa1714919. [Epub ahead of print]
【PICO】
P:消化管出血のリスクを有する患者
I:パントプラゾール40mg静注
C:プラセボ静注
O:90日死亡
secondary outcome:臨床的に重大な消化管出血、新規発症の肺炎、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)、急性心筋梗塞(AMI)
消化管出血のリスク=ショック、抗凝固薬の使用、腎代替療法下、24時間以上の人工呼吸器装着が予想される、肝疾患の既往、凝固異常
【試験の概要】
デザイン:RCT(multicenter、double blind)
地域:デンマーク
登録期間:2016年1月4日〜2017年10月22日
観察期間:90日
症例数:3298例(PPI群1645例、プラセボ群1653例)、脱落16例
解析:mITT解析
スポンサー:メーカーの関与なし
【結果】
患者背景は、肺疾患・凝固異常・緊急手術でちょっとだけ差があるのみ。
以下、ざっくりと。
年齢67歳、男性2/3、慢性肺疾患20%、慢性心不全9%、ICU入室からランダム化まで15時間、ICU入室理由 内科疾患60%;緊急手術30%;待機的手術10%、人工呼吸器80%、カテコラミン2/3、SOFA9点
PPI群 vs プラセボ群
▶︎90日死亡(primary endpoint)
31.1% vs 30.4% HR:1.02(95%CI:0.91-1.13)
▶︎消化管出血(secondary endpoint)
2.5% vs 4.2% HR:0.58(95%CI:0.40-0.86)
▶︎感染症(secondary endpoint)
16.8% vs 16.9% HR:0.99(95%CI:0.84−1.16)
【まとめと感想】
重症患者に消化管出血予防のためにPPIを投与しても、死亡率を改善するまでの効果はないけど、消化管出血は予防できる。上述のシステマティックレビューでも、PPI予防投与による死亡率改善は示されていなかったので、やはりそこまでの効果はないと言えます。著者はdiscussionでこのシステマティックレビューを引用して、死亡と感染に差がないけど消化管出血が減ったのは同じような結果だと言っていました。
ちなみに、AARは1.7%なので、NNTは59です。
感染症は特に有意差はなかったけど、PPIが肺炎とかCDIとかのリスクになり得ることは念頭において、消化管出血予防のために具合が悪い人にはちょこっとPPI入れておくってことでよいでしょう。