血管疾患

外傷患者のIVCフィルターと死亡率

Association Between Inferior Vena Cava Filter Insertion in Trauma Patients and In-Hospital and Overall Mortality.
JAMA Surg. 2016 Sep 28. [Epub ahead of print]

《要約》
重要性
入院した外傷患者は出血と血栓症のリスクが増大している。これらの患者に対するIVCフィルターの使用が増えているが、その効果を示す十分エビデンスはない。

目的
外傷患者へのIVCフィルターの留置が死亡率に影響をもたらすか検証する。

デザイン、セッティング、患者
この後方視的コホート研究では、2003年8月1日から2012年12月31日の間にボストンメディカルセンターでIVCフィルターが留置された患者と、層別化しプロペンシティスコアがマッチした患者を組み入れた。IVCフィルターが留置された患者とマッチした対照では、年齢、性別、人種・民族、Injury Severity Score(ISS)を多変量回帰モデルを用いてプロペンシティスコアを算出した。マッチングは受傷日で層別化した。

アウトカム
両群の院内死亡率を比較するために、年齢、性別、人種・民族、ISS、head and neck Abbreviated Injury Scoreによる脳損傷の重症度を調整した多変量ロジスティック回帰分析を用いた。受傷後24,48,72時間後と退院時に、National Death Indexから得たすべての患者のcharacteristicsと死亡率を解析した。

結果
IVCフィルターを留置した外傷患者451例と、それとマッチしたIVCフィルターを留置していない対照1343例で、平均年齢は47.2±21.5歳であった。ISSの中央値は、全体では24(1−75)であった。受傷後24時間生存した患者の平均3.8年(0−9.4年)のフォローアップでは、深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)の存在とは独立して、IVCフィルターの有無で死亡率や死因に有意差はなかった。追加的な解析では、退院後6ヶ月と1年時点でも有意差はなかった。フォローアップ期間中、8%(38/451例)でIVCフィルターを抜去した。

結論
この研究では、IVCフィルターの有無では外傷患者の生存率に差はなかった。IVCフィルターの抜去率は低く、IVCフィルターを留置したままの患者では死亡率が上昇するめ、外傷患者へのIVCフィルターの使用は再度検証されるべき

◇この論文のPICOは?
P:外傷患者
I:IVCフィルターの留置あり
C:IVCフィルターの留置なし
O:死亡率

◇デザイン、対象、観察期間
・後ろ向き
・ロジスティック回帰、プロペンシティスコアマッチ
・1794例
・受傷からIVCフィルター留置まで平均3日
・観察期間:平均3.8年

characteristics
外傷なので40歳代後半と比較的若い。外傷スコアがどの程度のものかイメージできないが、平均で24なので結構重症の外傷みたい。

◇結果
全体でみると・・・
・院内死亡率  IVCフィルターあり vs なし
   5.5% vs 22% 、P<0.001

調整後オッズ比は6.5(95%CI:3.9−10.6)と有意にIVCフィルターなし群で高い。

しかし、重症な外傷ほど、それが原因で早期になくなってしまうので・・・
in-hospital-mortality
IVCフィルターなし群では受傷24時間以内に14.5%が、IVCフィルターあり群では0.2%が死亡した(死ななかったから留置できている)。72時間以上生存した症例では、IVCフィルターによる死亡率の改善はない。IVCフィルターが留置されるのは、受傷から平均で3日なので、IVCフィルターは死亡率を改善させないと考えていいだろう。

ちなみに・・・
mortality1
長期的な死亡率では有意差なし。

mortality2
肺塞栓症を起こしてる症例やDVTがある症例に限っても、IVCフィルターの有用性は認められない。

◇感想
重症な外傷患者では、外傷が原因で受傷後早期に死亡する例が多い。受傷後早期にIVCフィルターを留置できる症例は、留置できるだけ状態がよいとも言える。そこにはかなりバイアスが入っていると思う。それは、72時間生存した症例、PE/DVTを合併している症例の死亡率が、IVCフィルター留置によって改善していないことからもわかる。

IVCフィルターはほとんど回収できておらず、長期的な問題(frcture、IVC外への突出、フィルター血栓など)もあるため、使用は慎重に検討しなければならない。