弁膜症

中等度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症 術後2年では僧帽弁形成術の有効性を示せず

Two-Year Outcomes of Surgical Treatment of Moderate Ischemic Mitral Regurgitation.
N Engl J Med. 2016 Apr 3. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
冠動脈バイパス術(CABG)単独と、CABG+僧帽弁形成術(MVP)では、術後1年での左室収縮末期容積係数(LVESVI)または生存率に有意差はなかった。CABG+MVPは、中等度もしくは高度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)の減少と関連していたが、有害事象が多かった。我々は術後2年のアウトカムを報告する。

方法
301例をCABG単独とCABG+MVPに無作為に割り付けた。2年間の臨床的なアウトカムと超音波学的なアウトカムをフォローした。

結果
術後2年での平均のLVESVIは、CABG単独群では41.2±20.0ml/m2体表面積、CABG+MVP群では43.2±20.6ml/m2体表面積であった(baselineからの平均の減少値はそれぞれ、−14.1ml/m2、−14.6ml/m2)。死亡率は、CABG単独群では10.6%、CABG+MVP群では10.0%であった(CABG+MVP群のHRは0.90、95%CI:0.45−1.83)。術後2年での中等度から高度のMRは、CABG単独群で多かった(32.3% vs 11.2%, P<0.001)。再入院や重大な有害事象は両群間で差はなかったが、神経学的イベントや上室性不整脈はCABG+MVP群でより多かった。

結論
中等度の虚血性MRを持つ患者のCABGでは、MVPを合わせて行っても、2年後の左室リバースリモデリングに違いをもたらさない。MVPはMRを抑えることができるが、生存率、有害事象、再入院を減少させず、また術後早期の神経学的イベントや上室性不整脈を増やす。

◯この論文のPICOはなにか
P:中等度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症を有する冠動脈多枝病変患者
I:CABGに加えMVPも行う(CABG+MVP群)
C:CABGのみ行う(CABG単独群)
O:2年後のLVESVI(もともとは12ヶ月後のLVESVIをprimary endpointとしていたが、12ヶ月では有意差はなく、今回はそのフォローアップのデータである)

exclusion criteria:構造的な僧帽弁疾患、PFOやASDに対する治療・左心耳閉鎖・Mazeが予定されている患者、僧帽弁手術の既往がある患者

◯baselineは同等か
心房細動がCABG+MVP群で多い。
LVESVIはCABG単独群の方が小さめだが、有意差はない。
characteristics
(NEJM2014;371:2178から引用)

◯結果
地域:米国26施設
登録期間:2009年〜2013年
観察期間:2年間
無作為化:層別化を行った上でブロック法により無作為化する。
盲検化:患者、治療介入者は盲検化できない。
必要症例数:術前のLVWSVI:80ml/m2、標準偏差:35ml/m2と想定。CABG単独群で4ml/m2、CABG+MVP群で16ml/m2改善すると仮定。また、power:0.9、αlevel:0.05として、症例数を300例としている。
症例数:301例(CABG+MVP群:150例、CABG単独群:151例)
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:National Institutes of Health、Canadian Institutes of Health Research。企業の関与はない。

CABG+MVP群で3/150例(2%)がCABGのみしか行われず、CABG単独群で8/151例(5.3%)がMVPも行っている。

LVESVI
  CABG+MVP群:41.2±20.0ml/m2体表面積
  CABG単独群:43.2±20.6ml/m2体表面積
result

◯感想/批判的吟味
・LVESVIというサロゲートエンドポイントで差はなかったが、死亡・再入院などの臨床的エンドポイントでも差はなかった。
・CABG+MVP群で心房細動が多く、baselineのLVESVIが有意差はないが若干大きめなので、それがMVPの有効性を減弱させる可能性がある
・臨床的なエンドポイントを見るには、2年間というのは短いのかもしれない。
・脳梗塞や神経学的イベントは、有意差はないもののCABG+MVP群で多い傾向。

2年という短期間では、中等度の虚血性MRに対するMVPの有効性はない。