心臓手術

STICH試験 低左心機能の冠動脈疾患患者に対するCABGは生命予後を改善する

Coronary-Artery Bypass Surgery in Patients with Ischemic Cardiomyopathy.
N Engl J Med. 2016 ;374(16):1511-20.

《要約》
背景
冠動脈疾患、心不全、高度左心機能不全の患者に対し、ガイドラインに基づいた薬物療法に加え冠動脈バイパス術(CABG)を行なった場合の生存利益は明らかではない。

方法
2002年7月から2007年5月に、EF<35%、CABGの適応がある冠動脈疾患患者1212例を、CABGと薬物療法(CABG群:610例)と薬物療法のみ(薬物療法群:602例)に無作為に割り付けた。主要評価項目は全死亡、副次評価項目は心血管死、その他の死亡、心血管が原因の入院とした。フォローアップ期間の中央値は9.8年である。

結果
主要評価項目は、CABG群では359例(58.9%)、薬物療法群では398例(66.1%)であった(HR:0.84、、95%CI:0.73−0.97)。心血管死は、CABG群で247例(40.5%)、薬物療法群で297例(49.3%)であった(HR:0.79、95%CI:0.66−0.93)。全死亡と心血管が原因の入院は、CABG群で467例(76.6%)、薬物療法群で524例(87.0%)であった(HR:0.72、95%CI:0.64−0.82)。

結論
薬物療法に加え、CABGを行なった虚血性心筋症患者では、10年以上の観察期間で、全死亡、心血管死、全死亡または心血管が原因の入院のいずれも、薬物療法のみ行った患者より有意に低かった。

◯この論文のPICOはなにか
P:EF<35%の冠動脈疾患患者
I:ガイドラインに基づいた薬物療法に加え、CABGを行う(CABG群)
C:ガイドラインに基づいた薬物療法のみ行う(薬物療法群)
O:全死亡(副次評価項目は、心血管死、全死亡または心血管が原因の入院、全死亡または心不全による入院、全死亡または全入院、全死亡または再血行再建)

inclusion criteria:詳細はSupplementary Appendix参照とのことなので省略。
exclusion criteria:左冠動脈主観部病変、CCSⅢ/Ⅳの狭心症

◯baselineは同等か
両群間に有意差なし。
characteristics

◯結果
地域:22カ国、99施設
登録期間:2002年7月24日〜2007年5月5日
観察期間:中央値9.8年
無作為化:interactive voice-response systemを用いる
盲検化:試験の性質上、患者と治療介入者は盲検化できないが、outcome評価者と解析者は盲検化されている。
必要症例数:Power90%、25%のリスク減少(薬物療法群での3年生存率75%と推定)として症例数を算出し登録を開始したが、症例数が集まらなかったため、400例のイベント(死亡)が発生するよう期間を延長した。必要症例数1200例、平均観察期間5年とている。今回はそのフォローアップのデータである。
症例数:1212例(CABG群610例、薬物療法群602例)
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:National Institutes of Health。企業の関与なし。

result

◯感想/批判的吟味
・CABG群で割り付け通りCABGが行われたのは555例(91.0%)、薬物療法群でCABGが行われたのは119例(19.8%)と、クロスオーバーが少なくない。
・薬物療法からCABGへのクロスオーバーによって、ITT解析を行うことでCABGの有効性がマスクされる可能性がある。
・baselineの平均年齢が60歳なので、半分以上の人はCABGの有無に関わらず60代のうちになくなっている。虚血性心筋症で低心機能だと、やはり予後が悪い。
・低心機能の冠動脈疾患患者でも、CABGには生命予後改善効果がある。