心不全

SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(ジャディアンス®)は心血管疾患を有する2型糖尿病患者の死亡率を改善する EMPA-REG OUTCOME試験

Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes
N Engl J Med. 2015 Sep 17. Epub ahead of print

◯この論文のPICOはなにか
P:心血管疾患を有する2型糖尿病患者
I:エンパグリフロジン(10mgもしくは25mg)の内服
C:プラセボの内服
O:心臓死、非致死的心筋梗塞(無症候性心筋梗塞を除く)、非致死的脳梗塞の複合エンドポイント

inclusion criteria:18歳以上、BMI45以下、eGFR>30ml/min/1.73m2、心血管疾患(2ヶ月以上前の心筋梗塞の既往、CAGまたはMDCTで証明された2枝以上または左冠動脈主幹部の狭窄、2ヶ月以上前のPCI/CABGの既往、2ヶ月以上前の脳梗塞の既往、末梢血管へのstentingやbypassなどの閉塞性動脈硬化症)と診断がついていて血糖降下薬を使用せずにHbA1c7.0−9.0%、もしくは血糖降下薬内服下で7.0−10.0%

study procedure:2週間のrun-in periodの後、ランダム化が行われる。エンパグリフロジン10mg、エンパグリフロジン25mg、プラセボの3群に1:1:1に分ける。ランダム化後12週間は糖尿病治療の薬剤を変更しない。その後は、それぞれの地域のガイドラインに基づいて変更可能。脂質異常症や高血圧症などそれぞれの国のガイドラインに基づいて最良な治療を行う。

◯ランダム化されているか
interactive voice- and Web-response systemでおこわなれる。

◯baselineは同等か
すべて同等。
年齢は約63歳。体重は86kgぐらいでBMIが30。心血管疾患や糖尿病治療の内訳も群間差なし、HbA1c:8.0程度。糖尿病罹患期間は5年以上が8割を占める。薬剤(抗血小板薬、スタチン、抗凝固薬)・血圧・コレステロール値・eGFR・Crなども群間差なし。

◯盲検化されているか
double blind trial。
outcomeの評価と解析は独立した機関が行っている。

◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
薬剤を1剤でも内服した者全員を解析に含めるている(modified ITT解析)。解析は、primary endpointとsecondary endpointの非劣勢を検証したのちに、primary endpointとsecondary endpointの優越性試験を行っている。

◯結果
エンパグリフロジン群4687例、プラセボ群2333例。
内服期間の中央値は2.6年で、観察期間の中央値は3.1年。

primary endpointは、エンパグリフロジン群で10.5%(490/4687例)、プラセボ群で12.1%(282/2333例)とエンパグリフロジン群で有意に低かった(hazar ratio:0.86,95%CI:0.74-0.99)。非致死的心筋梗塞と非致死的脳梗塞では有意差が付いていなかったが、心臓死(3.7% vs 5.9%, Hazard ratio:0.62, 95%CI:0.49-0.77)、全死亡(5.7% vs 8.3%, Hazard ratio:0.68, 95%CI:0.57-0.82)と有意に生命予後を改善していた。エンパグリフロジン10mg群も25mg群も、primary endpointに差はなかった。

◯批判的吟味/感想
・3年そこそこで、これだけ目覚ましい結果。
・心臓死を有意に抑制し、生命予後を改善している。
・全死亡における、NNTは39。
・心筋梗塞(致死的・非致死的)はプラセボとの差はないので、それ以外の効果ということになる(discussionでは、交感神経抑制を介した心筋酸素需要の抑制、アルブミン尿減少、降圧作用などが考察されていた)。
・ベーリンガーインゲルハイムが主導した研究で、イーライリリーも出資している。
・解析にスポンサーのひとつであるベーリンガーインゲルハイムが加わっている。
・メーカはこの結果を大きく喧伝するだろうが、日本人の心血管疾患患者では高齢でやせている方も多いので、適応は守りたいところ。