心不全

EMPA-REG試験心不全サブ解析 ハイリスク2型糖尿病に対するエンパグリフロジンの効果

Heart failure outcomes with empagliflozin in patients with type 2 diabetes at high cardiovascular risk: results of the EMPA-REG OUTCOME® trial.
Eur Heart J. 2016 Jan 26.[Epub ahead of print]

《要約》
背景
ハイリスクの2型糖尿病患者に対し、標準的治療へエンパグリフロジンすることにより3point MACE(心血管及び全死亡、心不全による入院)が減少したことを、以前報告した。baselineでの心不全の有無を含め、全患者とサブグループで心不全について、さらなる調査を行った。

方法・結果
患者は、エンパグリフロジン10mg、25mg、プラセボに割り付けられた。7020例が登録され、706例(10.1%)がbaselineで心不全を有していた。心不全による入院と心血管死は、エンパグリフロジン群265/4687例(5.7%)、プラセボ群198/2333例(8.5%)とエンパグリフロジン群で有意に低かった(HR0.66、95%CI:0.55−0.79)。3年間の心不全による入院と心血管死のNNTは35であった。baselineの心不全の有無によらず、また糖尿病・心不全に対する治療によらず、エンパグリフロジンの一貫した効果を認めた。エンパグリフロジンは、心不全による入院や心不全死を減少させ(2.8% vs 4.5%, HR0.61, 95%CI:0.47-0.79)、全入院を減少させた(36.8% vs 39.6%, HR0.89, 95%CI:0.82-0.96)。重大なものを含めた有害事象は、心不全を有していた群で多く見られたが、エンパグリフロジン群とプラセボ群では差は認めなかった。

結論
エンパグリフロジンは、ハイリスクの2型糖尿病患者においてbaselineの心不全の有無によらず、心不全による入院と心血管死を減少させた。

◯この論文のPICOはなにか
P:心血管疾患を有する2型糖尿病患者
I:エンパグリフロジン(10mgもしくは25mg)の内服
C:プラセボの内服
O:心臓死、非致死的心筋梗塞(無症候性心筋梗塞を除く)、非致死的脳梗塞の複合エンドポイント

inclusion criteria:18歳以上、BMI45以下、eGFR>30ml/min/1.73m2、心血管疾患(2ヶ月以上前の心筋梗塞の既往、CAGまたはMDCTで証明された2枝以上または左冠動脈主幹部の狭窄、2ヶ月以上前のPCI/CABGの既往、2ヶ月以上前の脳梗塞の既往、末梢血管へのstentingやbypassなどの閉塞性動脈硬化症)と診断がついていて血糖降下薬を使用せずにHbA1c7.0−9.0%、もしくは血糖降下薬内服下で7.0−10.0%

study procedure:2週間のrun-in periodの後、ランダム化が行われる。エンパグリフロジン10mg、エンパグリフロジン25mg、プラセボの3群に1:1:1に分ける。ランダム化後12週間は糖尿病治療の薬剤を変更しない。その後は、それぞれの地域のガイドラインに基づいて変更可能。脂質異常症や高血圧症などそれぞれの国のガイドラインに基づいて最良な治療を行う。

◯結果
地域:42カ国、590施設
登録期間:2010年9月〜2013年4月
観察期間:3.1年(中央値)
無作為化:コンピュータによって生成された乱数を用いる。層別化(HbA1c、BMI、腎機能、地域)を行う。
盲検化:double blind。outcome評価者と解析者は独立した機関が行っている。
必要症例数:非劣性の証明には691イベント(αlevel:0.0498, power90%、非劣性マージン1.3)の発生が必要とされているが、必要症例数については記載なし。
症例数:7020例(エンパグリフロジン10mg:2345例、25mg:2342例、プラセボ:2333例)
解析:Cox比例ハザードモデル(primary endpointはmITT解析)
スポンサー:べーリンガーインゲルハイム、イーライリリー

result
subgroup
haert failure

◯感想/批判的吟味
・baselineの心不全の定義は、心機能やBNPの測定はされておらず、治療介入者の判断である。
・全患者を対象とした解析結果と異なり、baselineで心不全があった群では、心不全入院や心血管死の減少に有意差はない。(baselineで心不全があった症例数は少ないために有意差がでなかった可能性はあるが、authorはbaselineの心不全の有無に関わらずエンパグリフロジンが有効であると結論づけている)。
・観察期間の中央値は約3年のため、症例数は急激に少なくなる。カプランマイヤー曲線では36ヶ月以降のプラセボ群で急速にイベント発生率が上昇しており、この部分の正確性には欠けるのではないか(試験開始早期からプラセボ群とエンパグリフロジン群の差は現れているため、時間経過とともに差は開く事が予想することはできる)。
・エンパグリフロジン固有の効果ではなく、SGLT2阻害薬のクラスエフェクトだろう(SGLTの選択性による違いはあるかもしれないが)
・劇的な有効性を示した試験は鵜呑みにせず、複数のRCTで有効性が確認される事が重要である。