Lixisenatide in Patients with Type 2 Diabetes and Acute Coronary Syndrome.
N Engl J Med. 2015 Dec 3;373(23):2247-57
背景
2型糖尿病患者、特に心血管疾患を有する患者では心血管疾患の死亡率がより高い。GLP−1受容体作動薬であるリキセナチドが、急性冠症候群を発症した2型糖尿病患者の心血管アウトカムに有効であるか検証した。
方法
180日以内に不安定狭心症による入院、または急性心筋梗塞を発症した患者を、標準治療に加えてリキセナチドを投与する群とプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。リキセナチドの非劣性と優越性を評価するのに十分な統計学的検出力を有するよう試験をデザインした。主要評価項目は心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、不安定狭心症による入院で、95%信頼区間の上限は非劣性試験では1.3、優越性試験では1.0とした。
結果
6068例が無作為化され、観察期間の中央値は25ヶ月であった。主要評価項目はリキセナチド群で406例(13.4%)、プラセボ群で399例(13.2%)であり、リキセナチドはプラセボに対し非劣性であったが、優越性は示せなかった(HR:1.02、95%CI:0.89−1.17)。心不全による入院(HR:0.96、95%CI:0.75−1.23)や全死亡(HR:0.94、95%CI:0.78−1.13)でも有意差はなかった。低血糖、膵炎、膵癌、アレルギーなどの重大な有害事象とリキセナチドのより強い関連は認めなかった。
結論
急性冠症候群を発症した2型糖尿病患者に対し、通常治療に加えてリキセナチドを投与することは、重大な心血管イベントを抑制せず、重大な有害事象も増加させなかった。
◯この論文のPICOはなにか
P:180日以内に急性冠症候群を発症した2型糖尿病患者
I:標準治療に加えてリキセナチドの投与(リキセナチド群)
C:標準治療に加えてプラセボの投与(プラセボ群)
O:心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、不安定狭心症による入院の複合エンドポイント
exclusion criteria:30歳未満、15日以内のPCI、CABGを行うことが適切な患者、90日以内に血行再建が予定されている患者、eGFR<30ml/min/1.73m2、HbA1c<5.5%・>11.0%。
手順
ランダム化の前に1週間のランニンピリオドがあり、プラセボを用いて皮下注射が適切に行えるか判断する。リキセナチドは1日1回10μgを皮下注する。投与開始2週間以降は、主治医の自由裁量で20μgまで増量できる(二重盲検)。
◯baselineは同等か
プラセボ群で、年齢が高く、脳梗塞既往が多く、eGFRが有意に低かった。これらは、リキセナチド群とアウトカムで差が出やすい方向に働く可能性がある。
◯結果
観察期間の中央値は、リキセナチド群で690日、プラセボ群で712日であった。
(tableはすべて本文から引用)
◯感想/批判的吟味
・プラセボ対照、二重盲検、無作為化試験。
・患者、治療介入者、アウトカム評価者は盲検化されている。
・ITT解析のみでper−protocol解析は行われていない。
・検出力は十分(事前に定めた症例数は6000例)
・追跡率は96%。
・心血管イベントを評価するのに2年という観察期間は十分とは言えないかもしれないが、カプランマイヤー曲線はほとんど一致しているので、観察期間を延長しても差はないのではないか。
心血管疾患を有する2型糖尿病患者に、心血管イベントを抑えるために、あえてリキセナチドを使用する必要はない。