Ticagrelor vs. Clopidogrel in Japanese, Korean and Taiwanese Patients With Acute Coronary Syndrome - Randomized, Double-Blind, Phase III PHILO Study.
Circ J. 2015;79:2452-60
背景
日本、台湾、韓国において、急性冠症候群(ACS)におけるプラスグレルやチカグレロルなどの新規のP2Y12阻害薬の有効性・安全性に関するデータはほとんどない。
方法・結果
多施設、二重盲検、無作為化のPHILO試験で、ACS801例を対象にクロピドグレルに対するチカグレロルの安全性と有効性を検証した(日本人721例、台湾人35例、韓国44例、不明1例)。発症24時間以内のACSを対象とし、主要安全性/有効性評価項目は、大出血と心筋梗塞・脳梗塞・血管死の複合エンドポイントである。12ヶ月で、大出血はチカグレロル群で10.3%、クロピドグレル群で6.8%であり(HR:1.59, 95%CI:0.94-2.53)、有効性評価項目はチカグレロル群で9.0%、クロピドグレル群で6.3%であった(HR:1.47, 95%CI:0.88-2.44)。いずれも、統計学的には有意ではなかった。
結論
日本、台湾、韓国では、ACSにおけるチカグレロルの使用は、クロピドグレルよりも大出血や心血管イベントが多い傾向にある。
◯この論文のPICOはなにか
P:急性冠症候群(STEMI/nonSTEMI)
I:アスピリンに加えて、チカグレロルを内服(チカグレロル群)
C:アスピリンに加えて、クロピドグレルを内服(クロピドグレル群)
O:心筋梗塞、脳梗塞、血管死をprimary efficacy endpointに、大出血をprimary safety endpointとした。
inclusion criteria:胸部症状が10分以上持続するACS患者、発症24時間以内
exclusion criteria:クロピドグレルに対する禁忌、活動性の出血または出血の既往、24時間以内の血栓溶解療法、抗凝固療法を要する状態、徐脈のリスクが高い患者、CYP3Aを阻害/減弱させる併用療法
手順:チカグレロルは180mgのローディングと180mg分2または90mg分1の内服を、クロピドグレルはローディング300mgと75mg分1の内服を行う。アスピリンはローディングは330mgまで、維持量75−100mg分1とする。
◯ランダム化されているか
central interactive web response or voice systemにより、チカグレロル群とクロピドグレル群に1:1に割り付けを行う。
◯baselineは同等か
群間差あり。75歳以上の高齢者、冠危険因子(高血圧症、高脂血症、糖尿病)、CABGの既往はチカグレロル群で多く、TIAの既往はクロピドグレル群で多かった。
以下、ざっくりと。
年齢67歳、BMI23、OMI8%、PCIの既往10%、非出血性脳梗塞の既往7%、CKD5%、胃潰瘍9%、STEMI50%、KillipⅣ1%、PCIは84%に行われている。
◯症例数は十分か
出血イベントがチカグレロル群で9.5%、クロピドグレル群で9.2%、primary efficacy endpointがチカグレロル群で15例、クロピドグレル群で18例と仮定。PLATO試験をもとに脱落率6.24%とし、必要症例数は800例(日本730例、韓国30例、台湾40例)で、801例が無作為化された(チカグレロル群401例、クロピドグレル群400例)。
◯盲検化されているか
解析はスポンサーによって行われ、第三者機関によって結果が確認された(スポンサーと第三者機関との間で解析結果の相違があった場合には第三者機関のものを採用した)。
◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
内服を開始せずに脱落した症例は除いたmodified ITT解析が行われている。脱落率は約4%。解析にはふくめられているが、患者の希望などによりチカグレロル群で約30%程度、クロピドグレル群で約40%程度の試験の中断がある。
◯結果
チカグレロル群vsクロピドグレル群、HR(95%CI)
primary safety endpoint(大出血):10.3%vs6.8%, 1.54(0.94-2.53)
小出血はチカグレロル群で有意に多い。15.2%vs9.2%、1.75(1.15−2.76)
primary efficacy endpoint:9.0%vs6.3%, 1.47(0.88-2.44)
◯感想/批判的吟味
チカグレロルとクロピドグレルを比較したPLATO試験では、日本人は含まれていなかったため、このPHILO試験にて日本人を対象にチカグレロルの安全性と有効性を検証した。統計学的には有意でなかったものの大出血や心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳梗塞)を増やす結果となった。日本人においてはチカグレロルの使用は慎重に行うべきだろう。