AHAのSTEMIのガイドラインが改訂された。
multivessel PCI(残存狭窄を有するSTEMI患者へのnoninfarct artery:非責任病変へのPCI)について。それと血栓吸引について。
まず、multivessel PCIについて。
改訂前のガイドラインでは、血行動態が安定したSTEMIに対するprimary PCIの際に、一期的にnoninfarct arteryへPCI(multivessel primary PCI)を行うことを禁じていた(classⅢ:Harm)。観察研究やメタ解析では、multivessel primary PCIは予後が悪いことが示されていたからだ。
4つのRCTから、multivessel PCI(primary/stagedともに)が有益かつ安全である可能性が示された。
PRAMI試験
症例数:465例
primary endpoint:心臓死、非致死的心筋梗塞、難治性狭心症
multivessel primary PCI群:9%、culprit artery-only PCI群:22%
HR:0.35(95%CI:0.21−0.58)
CvLPRIT試験
症例数:296例
観察期間:12ヶ月
primary endpont:全死亡、心筋梗塞再発、心不全、虚血による再血行再建
multivessel PCI群:10%、culprit artery-only PCI群:21%
HR0.49(95%CI:0.24−0.84)
DANAMI3 PRIMULTI試験
症例数:627例
観察期間:12ヶ月
非責任病変に対しFFR施行
primary endpoint:全死亡、非致死的心筋梗塞、非梗塞病変の虚血による再血行再建
multivessel PCI群:13%、culprit artery-only PCI群:22%
HR0.56(95%CI:0.38−0.83)
PRAGUE試験
症例数:214例
70%以上の残存狭窄に対しPCI施行
multivessel PCI vs culprit artery-only PCI
primary endpoint:全死亡、非致死的心筋梗塞、脳梗塞
38ヶ月の観察期間でprimary endpointに有意差なし
これらの試験の結果をもとに、multivessel primary PCIをclassⅢ:HarmからclassⅡbに変更した。また、staged PCIも考慮可。ただし、これはルーチンのmultivessel PCIを推奨するものではない。症状や非侵襲的検査を元に判断すべきである。
続いて、血栓吸引について。
2013年まではcalssⅡaでreasonableであるとされていたが、今回の改訂ではclassⅢ:no benefitと推奨を引き下げられた。以前のガイドラインは2つのRCTと1つのメタ解析(Nの多いTAPAS試験に引っ張られている)をもとに推奨レベルが決められた。
それ以降に行われた試験として、LADproximalとLADmidの病変を対象にしたINFUSE-AMI試験では血栓吸引により梗塞サイズは変わらず、7200例を対象にしたTASTE試験でも30日後、1年後の死亡・心筋梗塞再発・ステント血栓症・標的病変再血行再建の複合エンドポイントは、血栓吸引を行っても改善しなかった。
また、10000例を対象にしたTOTAL試験では、血栓吸引を行っても180日後の心血管イベント(心臓死、心筋梗塞再発、心原性ショック、NYHAⅣの心不全)は低下しなかった。そして、わずかではあるが血栓吸引群で脳梗塞が増加した。
この3試験を含んだ17試験でメタ解析を行った結果(20960例)では、死亡、心筋梗塞再発、ステント血栓症は、血栓吸引によって減少せず、脳梗塞を増加させるという結果であった。
いくつかのstudyでは、より大きい血栓でdistal embolism, no-reflow, 重大な心イベントのリスクであると報告されているが、TASTE試験やTOTAL試験ではそれは示されなかった。
以上のことから、primary PCIにおけるルーチンの血栓吸引の推奨レベルが、ⅡaからⅢ:no benefitに引きさげられた。ただし、bailoutのための血栓吸引はデータが不十分でありⅡbである。