虚血性心疾患

STEMIに対するルーチンの血栓吸引は予後を改善しないばかりか、脳梗塞を増やす可能性がある TOTAL試験

Outcomes after thrombus aspiration for ST elevation myocardial infarction: 1-year follow-up of the prospective randomised TOTAL trial
Lancet 2015 Oct 12 [Epub ahead of print]

◯この論文のPICOはなにか
P:発症12時間以内のSTEMI
I:血栓吸引とPCIを行う(PCI+TA群)
C:PCIのみ行う(PCI群)
O:心血管死、心筋梗塞の再発、心原性ショック、NYHAclassⅣの心不全の複合エンドポイント

inclusion criteria:18歳以上、発症12時間以内のSTEMI
exclusion criteria:CABG後、血栓溶解療法

手技:血栓吸引は病変部を通過させる前に開始する。血栓吸引カテーテルをガイディング内に戻す時は、ガイディングカテーテルを冠動脈にエンゲージさせる。塞栓症を防ぐため最後にガイディングカテーテル内を吸引する。

◯ランダム化されているか
computerised central systemによるランダム割付。

◯baselineは同等か
ざっくりと。年齢60歳、KillipⅡ度以上が4%、LAD病変40%、糖尿病20%、TIMI thrombus grade(grade4=血管径の2倍以上のsizeの血栓:15%,grade5=完全閉塞:65%)、DES45%、BMS52%、1年後の薬物療法(アスピリン95%、クロピドグレル45%、β遮断薬80%、スタチン94%)

群間差があったのは、onset to hospital arrival timeとGPⅡa/Ⅲb阻害薬の使用率で、それぞれ128分 vs 120分、23% vs 25%であった(PCI+TA群 vs PCI群)。

◯症例数は十分か
primary outcomeが14%に起こると仮定し、必要症例数は4000例と算出していたが、中間解析でprimary outcomeが7%であったため、必要症例数を10700例に修正している。power80%、20%のリスク減少。

◯盲検化されているか
患者、治療介入者は盲検化されていないが、アウトカム評価者と解析者は盲検化されている。

◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
PCIを行った症例のみ解析に含めるmodified ITT解析。

◯結果
PCI+TA群の95%が血栓吸引を施行し、うち93%で血栓吸引カテーテルが病変を通過している。また、PCI群ではbailout目的で7%で血栓吸引を施行している。

PCI+TA群 vs PCI群、HR
primary endpoint:7.8% vs 7.8%, 1.00(0.87-1.15)
心血管死:3.6% vs 3.8%, 0.93(0.76-1.14)
心筋梗塞の再発:2.5% vs 2.3%, 1.05(0.82-1.36)
心原性ショック:1.9% vs 2.1%, 0.90(0.68-1.19)
心不全:2.1%vs 1.9%, 1.10(0.90-1.14)
明確なステント血栓症:1.3% vs 1.5%, 0.89(0.63-1.24)
脳梗塞:1.2% vs 0.9%, 1.66(1.10-2.40)

◯感想/批判的吟味
primary endpointでは有意差はなかった。

以前、6ヶ月でのデータがpublishされていて、PCI+TA群で脳梗塞が多いと話題になった。今回の12ヶ月でのデータでは、6ヶ月以降に発症数に差がなく、12ヶ月の時点でも有意差が付いている。しかも発症がPCI施行数日後ということで、下のKaplan-Meier曲線も1ヶ月以内で徐々に差がついている感じ。なので、手技に関連したものとは考え難い。
stroke
NEJM2015;372:1389−1398より引用

PCI+TA群では1.2%/年で脳梗塞を起こしており、実感としてはもう少し低いのではないかと思ってしまう。脳梗塞をprimary endpointに設定した試験ではないし、発症した症例数も多くないので偶然による誤差の可能性はある。ただ、メタアナリシスでは血栓吸引を行うと脳梗塞が有意に多くなるらしい。
meta-analysis
本文より引用

血栓吸引の予後をみた試験では、このTOTAL試験が最も症例数が多く、TASTE試験が7000例で、他の試験は1000例に満たない。なので、TOTAL試験の結果によって引っ張られてしまい、差がついている可能性がある。