虚血性心疾患

非保護左冠動脈主幹部病変 PCIかCABGか

Everolimus-Eluting Stents or Bypass Surgery for Left Main Coronary Artery Disease
N Engl J Med. 2016 Oct 31. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
非保護左冠動脈主幹部病変は、通常冠動脈バイパス術(CABG)が行われる。無作為化試験で、左冠動脈主幹部(LMT)病変に対し薬剤溶出性ステントを用いたPCIが、CABGの代替の選択肢になり得ることが示された。

方法
軽度〜中等度の複雑性を有したLMT病変1905例を、フルオロポリマーのコバルコクロム(CoCr)エベロリムス溶出性ステントを用いたPCIと、CABGに無作為に割り付けた。PCI群948例、CABG957例で、病変の複雑性はSYNTAXスコア32以下のものを対象とした。主要評価項目は、3年間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞で、非劣性マージン4.2%の非劣性試験である。副次評価項目のうち一つは、30日間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞で、もう一つは3年間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞、虚血による再血行再建である。

結果
3年間で、主要評価項目はPCI群で15.4%、CABG群で14.7%であった(difference:0.7ポイント、97.5%CIの上限4.0ポイント、P=0.02 for noninferiority; 95%CI0.79-1.26 P=0.98 for superiority)。副次評価項目である30日間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞は、PCI群で4.9%、CABG群で7.9%であった(P=0.008 for superiority)。もう一つの副次評価項目である3年間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞、虚血による再血行再建は、PCI群23.1%、CABG群19.1%であった(P=0.01 for noninferiority, P=0.10 for superiority)。

結論
SYNTAXスコアが軽度〜中等度のLMT病変では、エベロリムス溶出性ステントはCABGに対し、3年間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞の発症率は非劣性であった。

◇この論文のPICOはなにか
P:SYNTAXスコア32以下の非保護左冠動脈主幹部病変
I:エベロリムス溶出性ステント(Xience)を用いたPCI
C:CABG
O:3年間の全死亡、脳梗塞、心筋梗塞

inclusion criteria:LMTに70%以上の狭窄があること、LMTに50−70%狭窄があり虚血が証明されているもの、SYNTAXスコア32以下
exclusion criteria:本文には記載なし

◇baselineは同等か
同等。65歳ぐらいで、3/4は男性。30%がDMで、その1/4がインスリンを使用している。安定狭心症が半分ちょっとで、残りはMI/UAP。SYNTAXスコアは、low(0-22)が6割で、残りの4割はintermediate(23-32)。
characteristics

◇結果
地域:17カ国126施設
登録期間:2010年9月29日〜2014年3月6日
観察期間:3.0年(中央値)
無作為化:interactive voice-based/Web-based systemによる。DMの有無・SYNTAXスコア(≦22、≧23)・施設で層別化。置換ブロック法。
盲検化:open-label
必要症例数:1900例(CABG群のイベント発生率を11%、非劣性マージン4.2ポイント、ロストフォローアップや参加取りやめが8%、power80%、αlevel0.05として算出。当初はpower90%で2600例としていたが、症例が集まらなかったため変更されている。)
症例数:1905例(PCI群948例、CABG群957例)
追跡率:記載はないが、割り付けられた血行再建施行率などをみると、脱落は多くなさそう。
解析:ITT解析(per-protocol解析、as-treatment解析も行われている)
スポンサー:Abbott Vascular

PCI群でPCIが施行されたのは935例(98.6%)。平均で1人あたり2.4本のステントが留置され、平均のステント長は49.1mmであった。

CABG群でCABGが施行されたのは923例(96.4%)。平均で1人あたり2.6本のグラフトがバイパスされており、98.8%の患者で内胸動脈が使用されている。

result
primary endpointは非劣性で、per-protocol解析でも同様の結果であった。

kplan-meier
全死亡は術後1年半ぐらいから差が開き始めていて、心筋梗塞はやはりCABGの周術期に多いけど、3年かけてPCI群が追いついてきている感じ。

◇批判的吟味
・盲検化はできないが、ハードエンドポイントなので影響はない。
・割り付け通りの血行再建が施行されている率が高く、クロスオーバーも低く、きちんと試験が行われている感じ。
・非劣性試験であるが、ITT解析とPP解析の両方が行われており、いずれも解析でも非劣性であった。
・Xienceを製造しているAbbott Vascularがスポンサー
・全死亡のKaplan-Meierは1年半ぐらいまで差がないが、その後徐々に差が付いてきている。
・心筋梗塞のKaplan-Meireは、早期はやはりCABG群で多いが3年たつと差はなくってしまっている。
・primary endpointは3年となっているが、PCIとCABGを比較するなら、もっと長期で見たい。

◇感想
SYNTAXスコアが32までのLMT病変であれば、PCIでもCABGでも3年間の心血管イベント(全死亡、心筋梗塞、脳梗塞)は変わらないという結果。

ただ、Kaplan-Meierを見ると、今後、全死亡はさらに差が開いてくるだろうし、心筋梗塞はPCI群の曲線がCABG群をクロスして右肩上がりに上がっていきそうな雰囲気。それはCABGが心筋梗塞の発症を抑え、死亡率を改善させる効果があることと、PCIにはその効果が乏しいことを考えると当たり前だろうと思う。

対象患者が65歳ぐらいってことを考えると、5年、10年とより長期のスパンでみると、差がはっきりでてくるのではないか。Abbottがスポンサーなので、そういうデータを出してくるかはわからないけど・・・。