心不全

拡張型心筋症(DCM)で心機能が改善したら薬剤を中止にできるのか

DCMではβ遮断薬、ACE阻害薬を処方し、可能ならMRAも入れます。それらの薬剤によって心機能が改善した場合、患者さんから薬剤の中止は可能か聞かれることもありますが、副作用などの問題がない限り終生の内服が必要であることを伝えて、飲んでもらっています。心機能がよくなったからといって、中止したことはありません。

薬物療法により心機能が改善した人で、内服を自己中断して通院をやめてしまい、数ヶ月〜数年でまた心機能が低下して、非代償性心不全となり受診or搬送されてくる人がいます。そして、そういう方に薬剤を再開しても、以前のような良好な反応は得られず、心機能は低下したままだったりします。

なので、DCMで薬剤を中止しないことは当たり前のことだと思っていました。薬剤を継続すべき根拠など調べたことがありませんでした。

でも、当たり前ではなかったようです。心機能が改善したDCMで薬剤を中止できるかどうかRCTをやったようです。つまり、薬剤を中止することが倫理的には問題ないということです。なにも疑わず常識だと思っていたことも、実はそれほど明確な根拠がなかったりするものなんですね(著者によれば、後向き研究しかなかったようです)。

まあ、結果としては、心機能が改善しても中止してはいけないということのようですが。

Withdrawal of pharmacological treatment for heart failure in patients with recovered dilated cardiomyopathy (TRED-HF): an open-label, pilot, randomised trial.
Lancet. 2019 Jan 5;393(10166):61-73.

【PICO】
P:薬物療法により心機能が改善したDCM
I:薬剤の漸減中止
C:薬剤の継続
O:DCMの再発
secondary endpoint:心血管死、心血管イベント、心血管疾患による予定外入院

薬剤:ループ利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、MRA

DCMの再発の定義
1)EFが10%以上低下し50%未満になること
2)LVEDVが10%以上増加し正常範囲を逸脱すること
3)NT-proBNPがベースラインの2倍以上上昇し400ng/Lを超えること
4)心不全の臨床的兆候

inclusion criteria:以前DCMと診断されEF<40%だった患者、ループ利尿薬・β遮断薬・ACE阻害薬・ARB・MRAを内服中、心臓MRIでEF>50%+LVESVI(LVESV/体表面積)が正常範囲、NT-proBNP<250ng/L
exclusion criteria:コントロール不良の高血圧(>160/100mmHg)、中等度以上の弁膜症、eGFR<30、上室性不整脈・心室性不整脈のためβ遮断薬の内服が必要な状態、狭心症など

【手順】
薬剤は16週以内に中止。薬剤はループ利尿薬から中止する。16週の時点で臨床症状・NT-proBNP・心臓MRIをチェック。その後、6ヶ月間両群の観察をする。6ヶ月たったら、薬剤継続群も同様の手順で薬剤を中止する。

【試験の概要】
デザイン:RCT(open-label、sigle center)
地域:イギリス
登録期間:2016年4月21日〜2017年8月22日
観察期間:12ヶ月
症例数:51例(中止群25例、継続群26例)
解析:ITT解析
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【患者背景】
両群に差はない。
ざっくりと。年齢54歳、男性2/3、DCMの診断から4−5年、当初のEF25%、EFの改善30%、ACE阻害薬100%、β遮断薬90%、MRA50%、ループ利尿薬10%、LVEDVI80、EF60%、遅延造影あり40%。

【結果】
最初の6ヶ月で、薬剤中止群25例のうち、11例(44%)でprimary endpointが発生。薬剤継続群はゼロ。

次の6ヶ月(薬剤継続群も薬剤を中止する)では、25/26例で薬剤が中止され、9/25例(36%[20.6-57.8%])でprimary endpointが発生。

【まとめと感想】
心機能が改善したからといって、DCMの薬物療法は中止すべきではありません。