心不全

心不全とジゴキシン

ジゴキシンは慢性心不全の生命予後を改善しない。1990年代に行われたRCTになるが、洞調律のHFrHF(EF<45%)、HFpHF(>45%)のいずれでも、死亡率はプラセボと差がなく、洞調律の慢性心不全ではジゴキシンが明らかに死亡を増やすというデータはない(1−2)

一方で、心房細動の慢性心不全に対してはというと、システマティックレビューでは生命予後が悪くなることが示されている(HR:1.29、95%CI:1.21−1.39)(3)。ARISTOTLE試験のサブ解析では、ジゴキシン濃度の上昇に比例して死亡率が上昇することが示されており、もしかしたらジゴキシンそのものがネガティブな結果をもたらしているのかもしれない(ジゴキシン血中濃度0.5ng/mL上昇するごとの全死亡に対するHR:1.19)(4)

少し古いデータではあるが、洞調律で有症候性心不全でもともと内服していたジゴキシンを中断すると、運動時間・NYHAclass・QOLが有意に下がる(5-6)。そして、心不全入院を減らす可能性がある(1)

日本循環器学会の急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、洞調律の患者に対するジゴキシンの投与(血中濃度0.8ng/ml以下に維持)はclassⅡaになっていて、十分な薬物療法をやってもNYHAⅡ以上の心不全症状があるような場合、洞調律であれば考慮してもいいだろう。

ただ、運動耐用能の改善が示されたこれらの試験で併用されていた治療は、利尿薬とせいぜいACE阻害薬で、現在の至適薬物治療からはかけ離れているので、現在の指摘薬物療法にジゴキシンを加えて同様の効果があるかはわからない。

自分はというと、ジゴキシンはほとんど使いません。低心機能の非代償性心不全の急性期で、頻脈性心房細動のレートコントロールをつけたいときぐらいしか出番はないです。そんな感じなので、心不全にジゴキシンが効いたと実感したことはありません。

(1)N Engl J Med. 1997;336(8):525.
(2)Circulation. 2006;114(5):397.
(3)Eur Heart J. 2015;36:1831–1838
(4)J Am Coll Cardiol. 2018;71(10):1063-1074.
(5)J Am Coll Cardiol. 1991;17(3):743.
(6)J Am Coll Cardiol. 1993;22(4):955.