虚血性心疾患

AMI+多枝病変+心原性ショック PCIは責任病変のみにするべき

PCI Strategies in Patients with Acute Myocardial Infarction and Cardiogenic Shock
N Engl J Med. 2017 Oct 30. doi: 10.1056/NEJMoa1710261. [Epub ahead of print]

◇リサーチクエスチョン
AMIで多枝病変を有する心原性ショックでは、完全血行再建より、責任病変にのみPCIを行った方が、臨床的なアウトカムを改善するのではないか。

◇PICO
P:STEMIもしくはNSTEMIで、多枝病変を有する心原性ショック
I:責任病変にのみPCI(culprit only群)
C:責任病変に加え非責任病変にもPCI(multivessel PCI群)
O:全死亡、腎代替療法を必要とする腎不全

inclusion criteria:多枝病変(70%以上の狭窄が2血管以上にあること)、心原性ショック(カテコラミンを使用しても30分以上SBP<90mmHgが遷延すること、肺うっ血、乳酸>2mmol/Lなど)

exclusion criteria:ショック発症から12時間以上経過、30分以上CPRされている、瞳孔散大・対光反射なしなど

◇試験の概要
デザイン:多施設RCT(オープンラベル)
地域:ヨーロッパ
登録期間:2013年4月〜2017年4月
観察期間:30日
症例数:1075例
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし

◇結果
culprit only群 vs multivessel PCI群

▶︎全死亡+RRTを要する腎不全
=ITT解析=
  45.9% vs 55.4%
  相対リスク:0.83(95%CI:0.71−0.96)

=Per-Protocol解析=
  44.8% vs 55.1%
  相対リスク:0.81(95%CI:0.69-0.96)

これらの結果は、性別、年齢、DMやHTの有無、STEMIかNSTEMIか、責任病変がLADかどうか、CTOの有無や病変数など、どのサブグループでも一貫していた。

▶︎全死亡
  43.3% vs 51.6%
  相対リスク:0.84(95%CI:0.72-0.98)

primary endpointでついた有意差は、全死亡によるもの。RRTを要する腎不全では、両群に差はなかった。また、心筋梗塞再発、うっ血性心不全、血行動態安定までの時間、ICU滞在日数、人工呼吸器装着日数にも、差はなかった。

◇まとめと感想
心原性ショックを伴うAMI+多枝病変で、責任病変も非責任病変もPCIを行う治療戦略より、責任病変のみPCIを行い、必要に応じてstagedで非責任病猿のPCIを行った方が、死亡率が低いという結果であった。

これはちょっと衝撃的。ESCガイドラインでは、AMI+多枝病変+心原性ショックの場合、完全血行再建はclassⅡbの推奨。AHAガイドラインでは、責任病変のPCIを行った後も心原性ショックが遷延しているなら、非責任病変へのPCIを推奨している。

このCULPRIT-SHOCK試験は、これらの推奨とは逆の結果を示した。AMI+多枝病変+心原性ショックの場合、完全血行再建を行った方が死亡率が高かった。

AMI+多枝病変+心原性ショックを十把一絡げにして、完全血行再建の効果がなくても、やはり有益な患者がいるのではないか。たとえば、責任病変や非責任病変の部位によっては完全血行再建が有効な場合もあるのではないか。そう思って、サブグループ解析をみても、どのサブグループでも一貫して、culprit only PCIのアウトカムがよいという結果である。

交互作用のPのカットオフがいくつが適切なのかわからないが、仮にP<0.1にすると、糖尿病、LADのSTEMIかどうかの、2つのサブグループで交互作用を認める。しかし、そうはいっても決してmultivessel PCIが有効ということではない。せいぜいeven。

こういった試験では、クロスオーバーはつきものであり、両群で10%程度クロスオーバーしている。またmultivessel PCI群で完全血行再建できたのは81%であった。であれば、PP解析ならITT解析よりmultivessel PCIの効果をみれるはず。しかし、PP解析でも結果は変わらない。

AMI+多枝病変+心原性ショックであっても、ルーチンで非責任病変まで手を出してはいけない。この結果でガイドラインも変わるのか。

ただし、どのような場合ならprimary PCIで完全血行再建すべきか、staged PCIを行うのはどのような病変かについては、この試験からはわからない。