学生の頃、心筋梗塞にはMONAと習った気がする。
M:モルヒネ
O:酸素
N:硝酸薬
A:アスピリン
今でもそう教わるのかは知らないが、少なくとも酸素投与は必須ではない。というか、自分はSpO2≧90%あって呼吸困難がなければ、酸素投与はしないようにしている。
ただ、心筋梗塞に酸素投与をすべきかどうかについては結論が出ていないらしい。
AVOID試験では、酸素投与によりトロポニンのピーク値が高い傾向があった(1)。梗塞サイズが小さければ、その後の長期的なアウトカムに影響するはずだが、臨床的なアウトカムは確認されていない。
SOCCER試験では、酸素投与の有無で梗塞サイズに変化があるか心臓MRIにて検証しているが、差はなかった(2)。
また、コクランレビューでは、inconclusiveと断っているが、酸素投与の有無により死亡率は変わらないとされている(3)。
このDETO2X-AMI試験は、1年後の全死亡をアウトカムとして、酸素投与の有効性を検証した試験である。
Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction.
N Engl J Med. 2017 Aug 28.[Epub ahead of print]
◇この論文のPICOはなにか
P:心筋梗塞が疑われる患者
I:酸素投与あり(6L/minを6−12時間)
C:酸素投与なし
O:1年後の全死亡
inclusion criteria:症状発現から6時間以内、SpO2≧90%、心電図での虚血性変化もしくはトロポニンの上昇
exclusion criteria:心停止
◇試験の概要
デザイン:RCT
地域:スウェーデン
登録期間:2013年4月13日〜2015年12月30日
観察期間:1年
盲検化:オープンラベル
必要症例数:6600例(酸素投与により1年死亡率の20%減)
症例数:6629例
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし
収縮期血圧以外は、両群間に差はない。
最終的な診断は、3/4が心筋梗塞で、そのうちの60%ぐらいがSTEMI。
SpO2は、酸素投与群99%、酸素なし群97%(中央値)
酸素投与群での投与期間は、11.6時間(中央値)
酸素なし群で、低酸素血症により酸素投与を開始したのは254例(7.7%)。
約2/3で血行再建が行われている。
酸素してもしなくても、1年後の死亡率は変わらない。
心筋梗塞による再入院は酸素なし群で少ない傾向だが、有意なものではない。
トロポニンのピーク値にも全く差がない(心筋梗塞の79.4%でトロポニンの測定がされている)。
どのサブグループでも、一貫した結果。
心筋梗塞のタイプによらず、酸素投与の効果なし。
◇感想
低酸素血症がない心筋梗塞の患者に、酸素を投与してもしなくても、1年後の死亡率は変わらない。
心筋梗塞に限ったサブグループでも、同様の結果であった。
トロポニンのピーク値に差がなかったことから、梗塞サイズもそこまで変わらないことが示唆される。AVOID試験では、トロポニンのピーク値は酸素なし群で少ない傾向にあったが、それとは若干異なる。同試験がトロポニンをエンドポイントにしており、またDETO2X-AMI試験では心筋梗塞の79%でしかトロポニンがフォローされていないのが要因かもしれない。
少なくとも、心筋梗塞で必ず酸素投与しなければならないという根拠はないと考えていいだろう。
(1)Circulation 2015;131:2143-50
(2)Eur J Emerg Med. 2016 Nov 23. PMID: 28664557
(3)Oxygen therapy for acute myocardial infarction.(Cochrane Database Syst Rev)