STEMIでは責任病変に対しprimaryPCIが行われるが、約50%の患者が責任病変以外に狭窄がある。それに対しPCIをやるかどうかについて議論があるが、PCIを行う場合はFFRで評価することが妥当とされる。しかし、それをどのタイミングで行い、どのタイミングでPCIをやるべきかは結論がでていない。
このCompare-Acute試験は、primaryPCIの際に残存狭窄に対するFFR、PCIを行うストラテジーが、責任病変に対するprimaryPCIのみ行うストラテジーより優れているか検証する目的で行われた。
Fractional Flow Reserve–Guided Multivessel Angioplasty in Myocardial Infarction
N Engl J Med. 2017 Mar 30;376(13):1234-1244
◇この論文のPICOはなにか
P:50%以上の残存狭窄があるSTEMI
I:FFRガイドで残存狭窄にPCI(完全血行再建群)
C:FFRのみでPCIは行わない(梗塞血管のみ群)
O:12ヶ月の全死亡、非致死的心筋梗塞、血行再建、脳血管イベント
血行再建は、冠動脈に50%以上の狭窄があり以下の条件を1つでも満たす場合か、虚血の症状や兆候がなくても70%以上の狭窄があれば、臨床的適応があると判断する。ただし、45日以内の血行再建はイベントに含めない。
責任血管由来と考えられる狭心症の再発、安静時・労作時の心電図の虚血性変化で責任血管由来と考えられるもの、フォローアップ期間中の侵襲的機能的診断検査での異常(FFRなど)
exclusion criteria:LMT、CTO、非責任血管がTIMI2以下、primary PCIの結果が良くないor合併症あり、高度の弁膜症、KillipⅢ/Ⅳ
primary PCIが終わった時点で血行動態が安定していれば、FFRを行い、完全血行再建群と梗塞血管のみ群に無作為化する。FFRの結果に関しては、患者と主治医(PCIチームとは別)は知らされない。完全血行再建群では、primary PCIに引き続き非責任血管へのPCIを行う。できない場合は、遅くとも72時間以内に施行。
◇試験の概要
地域:ヨーロッパ、アジアの24施設
観察期間:12ヶ月
無作為化:封筒法
盲検化:オープンラベル
必要症例数:885例
症例数:885例(完全血行再建群295例、梗塞血管のみ群590例)
追跡率:99.9%(フォローアップ不能1例)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Abbott Vascular社、St. Jude Medical社)
◇患者背景
(本文から引用)
差はない。UAP的なものが多く含まれているのか、CKが低め。
(本文から引用)
完全血行再建群では、primaryPCIの際に残存狭窄に対しても一期的にやるので、手技時間は長くなり、造影剤使用量も増える。完全血行再建群では、163例でFFRが陽性となりPCIが行われている。
◇結果
(本文から引用)
primary endpointで有意差あり。中身は、血行再建のみで有意差が付いている。自然発生のAMIが完全血行再建群で少ない傾向。手技に関連したAMIも完全血行再建群で少ないが、これはprimaryPCIと一緒にやっているので、CK上昇がマスクされる影響もありそう。
◇批判的吟味
・複合エンドポイントのうち、血行再建というソフトエンドポイントのみで有意差あり。そして、その血行再建というのは、冠動脈に70%以上の狭窄があれば虚血の証拠や症状がなくても、血行再建をやればイベントとしてカウントされている。それなら、梗塞血管のみ群でイベントが増えるに決まっている。エンドポイントに含める必要があったのか。
・心筋梗塞が完全血行再建群で少ない傾向にあるが、両群ともイベント数は10例前後なので、信頼性は低い。
・完全血行再建群では163例で残存狭窄に対し血行再建を行なっている。それをあえてエンドポイントに含めてしまうと、完全血行再建群では梗塞血管のみ群より1.8倍多く血行再建を行なっていることになる。つまり、梗塞血管のみ群では45%も血行再建が少ないということになる。血行再建が45%も抑えられていて、かつ、死亡も心筋梗塞も完全血行再建群と変わらないという結果なら、FFRガイド完全血行再建をしない方がいいのではないか。
◇感想
STEMIに対し、FFRガイド完全血行再建を行うと、責任血管のみ治療した場合に比べて、12ヶ月の心血管イベントが抑えられるという結果だった。ただ、心血管イベントというのは、血行再建というソフトエンドポイントのみ減少し、死亡や心筋梗塞に差はなかった。
正直、結果は微妙だったと思うが、primaryPCIの際にFFRをやり、非梗塞血管に対してもPCIを行うというストラテジーが安全であることは確認できた。