糖尿病

2型糖尿病への早期介入とメトホルミンの重要性

2型糖尿病では、HbA1cの上昇は心血管疾患や死亡を増加と関連があり、HbA1cが1%上昇するごとに、心血管疾患の発症が18%増える(1)。

HbA1cを低下させることが微小血管障害の抑制に有効であるが、HbA1cを下げれば大血管障害を抑制できるかというと、必ずしもそうではない。UKPDSでは、発症早期の2型糖尿病に対し厳格な血糖コントロールを行うことで、全死亡を有意に減少させたが、ACCORD試験、VDAT試験、ADVANCE試験など他のRCTでは、厳格な血糖コントロールの有効性は示されなかった(2−5)。

UKPDSでは発症早期の2型糖尿病を対象としており、その他のRCTはそれよりも罹患期間が長かった。つまり、発症早期に厳格な血糖コントロールをすることで心血管イベントは抑えられるが、動脈硬化がある程度進行してしまった糖尿病では、厳格な血糖コントロールは心血管イベントの抑制に繋がらない。

また、厳格な血糖コントロールの効果は数年のスパンで行う介入研究では現れないが、介入研究終了後に血糖コントロールに差がなくなっても、10年単位のスパンでみると心血管イベントを抑制し始める。これは”metabolic memory”、”legacy effect”と呼ばれている。

罹患期間が長い症例、高齢者では重大な低血糖を起こすリスクが高く、厳格な血糖コントロールが、生命予後を悪化させる可能性があるため、注意を要する。

薬剤に関しては、RCTで全死亡を抑制させることができたものは2つ。メトホルミンとエンパグリフロジンで、メトホルミンは一次予防、エンパグリフロジンは主に二次予防を対象とした試験であった。

メトホルミンは、血糖効果作用(FGBが20%、HbA1cが1.5%低下)、体重増加や低血糖がないこと、忍容性の高さ、コストから2型糖尿病の第一選択薬として推奨されている。

メトホルミンは、肝臓からのグルコース放出を抑制したり、筋肉や肝臓へ作用しインスリンを介した糖の利用を高める効果がある。また、脂質への作用もあり、血中中性脂肪、遊離脂肪酸、LDLが低下し、ごくわずかだがHDLが上昇するという、副次的な効果がある。

日本人は、肥満によるインスリン抵抗性がメインの糖尿病ではなく、肥満のないインスリン分泌不全の糖尿病が多いためか、あるいは乳酸アシドーシスを忌避されてか、実臨床ではメトホルミンは第一選択になっていない。おそらく、DPP4阻害薬が経口血糖降下薬として一番処方されている薬剤だろう。

欧米人ほどインスリン抵抗性が高くないアジア人でもメトホルミンの有効性は確認されている。中国人の2型糖尿病304例を対象に、メトホルミンとSU薬に無作為に割り付けたSPREAD-DIMCAD試験(平均年齢63際、観察期間5年)で、HbA1c7.0%と両群で差を認めなかったが、メトホルミン群で心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞、冠動脈血行再建)の有意な低下を認めた。

また、多施設の入院データベースを利用したレトロスペクティブなデータではあるが、日本人でもSUと比べメトホルミンで有意に心血管イベント(狭心症、心筋梗塞、心不全、脳梗塞、頭蓋内出血)を抑制していた。そして、SUに対する優位性が示されたのはメトホルミンのみで、αGIやDPP-4阻害薬でもSUと差はなかった(7)。

メトホルミンと比べSUで心不全が増える理由としては、体重増加があげられる(8)。その点では、DPP-4阻害薬よりメトホルミンの方が望ましく、さらにHbA1c低下作用(これが心血管イベント抑制につながるとは言えないが)、コストの面ではメトホルミンに軍配があがる(9)。

メトホルミンを使用する上で注意すべき副作用として、もっとも多いのは消化器症状。金属の味がする、食欲低下、嘔気、腹部不快感、下痢など。これらの症状は軽度、一過性で、減量・中止により消失する。

メトホルミンはVitB12の吸収も抑えるため、5−10%で血清VitB12濃度の減少が見られるが、巨赤芽球性貧血はまれである。巨赤芽球性貧血に先行し末梢神経障害が起こることがあり、糖尿病性神経障害と誤診されることがある。

また、よく知られた副作用には、乳酸アシドーシスがある。症状は非特異的で、食欲不振、嘔気・嘔吐、腹痛、傾眠、過換気、低血圧である。血中乳酸値は重要ではない。高齢だからといって乳酸アシドーシスが増えるわけではなく、腎機能によるものでもない。腎機能障害があっても安全に使えるというデータもある。ただ、腎機能がどこまで悪いとだめなのかわからないが、すくなくともeGFR30以下はダメ。30−45は半分に減量が望ましい(10、11)。ただ、日本人でのデータはないので、添付文書には従った方が無難ではある。

■reference
(1)Ann Intern Med. 2004;141(6):421-31.
(2)Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):854-65.
(3)Diabetes Care. 2014; 37: 634-43.
(4)N Engl J Med 2009; 360: 129-139.
(5)N Engl J Med 2008; 358: 2560-2572.
(6)Di­abetes Care 2013; 36: 1304-1311
(7)BMC Endocrine Disorders 2015, 15:49
(8)J Am Heart Assoc. 2017;6(4):e005379.
(9)Ann Intern Med. 2016;164(11):740-51
(10)Cochrane:Risk of fatal and nonfatal lactic acidosis with metformin use in type 2 diabetes mellitus
(11)Ann Intern Med. 2017;166(3):191-200.
UoToDate:Metformin in the treatment of adults with type 2 diabetes mellitus(last updated: Apr 06, 2017.)