糖尿病の治療薬であるSGLT-2阻害薬、GLP-1作動薬、DPP-4阻害薬の全死亡や心血管死に対する効果を、直接比較したRCTはない。EMPA-REG試験やCANVAS試験でSGLT-2阻害薬の全死亡・心不全に対する有効性が示されているが、GLP-1作動薬やDPP-4阻害薬ではプラセボ以上の効果は示されておらず、またDPP-4阻害薬は心不全を増加させる懸念がある(1-3)。
これは、その3種類の薬剤のネットワークメタアナリシスである。
Association Between Use of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors, Glucagon-like Peptide 1 Agonists, and Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibitors With All-Cause Mortality in Patients With Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-analysis.
JAMA. 2018;319(15):1580-1591
【概要】
・SGLT-2阻害薬、GLP-1作動薬、DPP-4阻害薬の全死亡と心血管イベントに対する効果を比較したネットワークメタアナリシス。
・観察期間が12週以上で、互いの薬剤・プラセボ・無投薬と比較したRCTを統合・解析
・期間:2017年10月11日まで
・primary endpoint:全死亡、
・secondary endpoint:心血管死、心不全イベント、心筋梗塞、不安定狭心症、脳梗塞
・safety endpoint:有害事象、低血糖
【結果】
RCT236試験、176310例を組み入れ。
risk of biasは104試験 (44.1%) でlow、3試験 (1.3%) でhigh。
Egger’s test P=0.27
全死亡 (primary endpoint)
I2=12%
SGLT-2阻害薬 vs プラセボor無投薬
HR:0.80 (95%CrI:0.71-0.89)、絶対リスク減少:−1.0% (95%CrI:-1.5to-0.6%)
GLP-1作動薬 vs プラセボor無投薬
HR:0.88 (95%CrI:0.81-0.94)、絶対リスク減少:−0.6% (95%CrI:-1.0to-0.3%)
DPP-4阻害薬 vs プラセボor無投薬
HR:1.02 (95%CrI:0.94−1.11)、絶対リスク減少:−0.1% (95%CrI:-0.3to0.6%)
SGLT-2阻害薬は、GLP-1作動薬との有意な差はないが、DPP-4阻害薬と比較し全死亡の有意な減少と関連あり (HR:0.78, 95%CrI:0.68-0.90, 絶対リスク減少:-0.9%, 95%CrI:-1.2to-0.4%)。
心血管死
I2=19%
SGLT-2阻害薬 vs プラセボor無投薬
HR:0.79 (95%CrI:0.69-0.91)、絶対リスク減少:−0.8% (95%CrI:-1.1to-0.3%)
GLP-1作動薬 vs プラセボor無投薬
HR:0.85 (95%CrI:0.77-0.94)、絶対リスク減少:−0.5% (95%CrI:-0.8to-0.1%)
DPP-4阻害薬 vs プラセボor無投薬
HR:1.00 (95%CrI:0.91-1.11)、絶対リスク減少:0.0% (95%CrI:-0.3to0.4%)
全死亡同様、SGLT-2阻害薬はGLP-1作動薬との有意差はないが、DPP-4阻害薬と比較し心血管死の有意な減少と関連あり (HR:0.85, 95%CrI:0.74-0.98, 絶対リスク減少:-0.5%, 95%CrI:-0.8to-0.1)。
心不全イベントは、DPP-4阻害薬やGLP-1作動薬と比較し、SGLT-2阻害薬で有意な減少あり。DPP-4阻害薬はコントロール (プラセボor無投薬) と比較し、有意な増加あり (HR:1.13, 95%CrI:1.00-1.28, 絶対リスク減少:0.4, 95%CrI:0.0-0.8%)。
心筋梗塞、不安定狭心症、脳梗塞では、実薬同士の比較では有意差なし。
【まとめ】
SGLT-2阻害薬やGLP-1作動薬は、DPP-4阻害薬と比較して有意に全死亡や心血管死を減少させた。また、心不全イベントはDPP-4阻害薬でプラセボと比較して増加している一方で、SGLT-2阻害薬ではDPP-4阻害薬やGLP-1作動薬と比べ有意にリスク減少を認める。
EMPA-REG試験ではエンパグリフロジンがプラセボに比べ、脳梗塞を増加させる傾向にあったが、このネットワークメタではHRや95%CrIを見る限り、それほど気にしなくてもいいのかもしれない。
糖尿病治療で、心不全や冠動脈疾患を合併している症例やそのハイリスク症例に対しては、性感染症、下肢切断、脳梗塞などに配慮した上で、SGLT-2阻害薬を第二選択薬として使っていくという流れになっているのかなと思います。
(1) N Engl J Med. 2015;373(22):2117-28.
(2) N Engl J Med. 2017;377(7):644-657
(3) N Engl J Med. 2017;377(13):1228-1239.