Prevalence of Pulmonary Embolism among Patients Hospitalized for Syncope
N Engl J Med 2016; 375:1524-1531
背景
失神のため入院した患者のうち、肺塞栓症の有病率は明らかではなく、現在のガイドラインではこれらの患者に対する肺塞栓症の精査については、ほとんど注意が払われていない。
方法
イタリアの11施設で、初回の失神で入院した患者を対象に、肺塞栓症に代わる失神の原因の有無に関わらず、肺塞栓症のシステマチックな精査を行った。臨床的に検査前確率が低い(Wellsスコアによる)ことと、Dダイマーが陰性であることで除外し、他のすべての患者にCTによる肺動脈造影もしくは肺換気血流シンチを行った。
結果
560例(平均年齢76歳)が試験に組み入れられた。330/560例(58.9%)が、臨床的に低い検査前確率とDダイマー陰性によって肺高血圧症が除外された。残った230例のうち、97例(42.2%)が肺塞栓症と特定された。全集団のうち、肺塞栓症の有病率は17.3%(95%CI14.2−20.5)であった。主肺動脈または葉動脈の肺塞栓症の所見、両肺の25%以上の血流欠損の所見は、61例に認めた。肺塞栓症以外で失神が説明可能である355例のうち45例(12.7%)で、失神の原因が特定されなかった205例のうち52例で、肺塞栓症を認めた。
結論
失神の初回のエピソードがあり入院した患者のうち、約6人に1人で肺塞栓症が特定された。
◇この論文のPICOは?
O:肺塞栓症
P:初回の失神のため入院した患者
失神の定義:突然発症の一過性の意識消失で、1分以内に自然に意識が回復すること。また、癲癇、脳梗塞、頭部外傷などの明らかな原因による一過性の意識消失は除外。
入院の理由:転落による外傷、重篤な併存疾患、原因不明の失神、心原性失神の可能性が高い
除外基準:失神歴があること、抗凝固療法を行っていた患者、妊娠
◇デザイン、対象
・横断研究
・失神を主訴にERを受診したのは、2584例
・診断がついたものなどを除いた560例(肺塞栓症の有病率が10−15%、αlevel0.05として、必要症例数は550例)が対象
◇結果
低い検査前確率、Dダイマー陰性:330/560例
230例のうち、
CTによる確定診断:72/180例
肺換気血流シンチによる確定診断:24/49例
剖検による確定診断:1/1例(肺動脈主幹部)
失神患者全体では、17.3%(97/560例)が肺塞栓症だった。
CTで診断した肺塞栓の血栓の部位は、
肺動脈主幹部30例(41.7%)
肺葉動脈18例(25.0%)
区域動脈19例(26.4%)
亜区域動脈5例(6.9%)
肺換気血流シンチで診断した肺塞栓症で血流の欠損は
50%以上が4例(16.7%)
26−50%が8例(33.3%)
1−25%が12例(50.0%)
血圧・心拍数・呼吸数などのバイタルは結構重要。足の所見(発赤・腫脹)も確認すべき。
◇感想
失神を主訴にER受診した患者2584例のうち、97例(3.8%)は肺塞栓症を起こしている。見つかった肺塞栓が、必ずしも失神の原因かどうかはわからない。この試験では、問診とDダイマーからルーチンでCTもしくは肺換気血流シンチを行っているので、他の原因で失神した人にたまたま肺塞栓が見つかったっていう症例も含まれる。
肺塞栓症を疑う際の重要な所見は、呼吸数(>20回/分)、心拍数(>100回/分)、収縮期血圧(<110mmHg)、DVTの臨床所見(下肢の発赤・腫脹)など。Dダイマーももちろん測定すること。