Effect of a retrievable inferior vena cava filter plus anticoagulation vs anticoagulation alone on risk of recurrent pulmonary embolism: a randomized clinical trial.
JAMA. 2015 Apr 28;313(16):1627-35.
重要性
急性肺血栓塞栓症の患者に対し、抗凝固療法に加え回収可能型IVCフィルター留置することがよくあるが、そのベネフィットは不明確である。
目標
急性肺血栓塞栓症を発症し再発リスクが高い患者に対し、抗凝固療法+回収可能型IVCフィルターの安全性と有効性を評価すること。
デザイン、セッティング、参加者
無作為化、オープンラベル、エンドポイントを盲検化した臨床試験を行った。登録期間は2006年8月から2013年1月で、フォローアップは6ヶ月とした。重症度基準を1つ以上満たす深部静脈血栓症を有する急性症候性肺血栓塞栓症を、回収可能型IVCフィルター+抗凝固療法(IVCフィルター併用群200例)と抗凝固療法単独(抗凝固療法単独群199例)に割り付けた。
介入
すべての患者で少なくとも6ヶ月は抗凝固療法を行った。IVCフィルター併用群には、回収可能型IVCフィルターを留置した。フィルターの回収は留置から3ヶ月後に予定された。
主要なアウトカム
有効性主要評価項目は3ヶ月時点での症候性の肺血栓塞栓症の再発である。副次評価項目は6ヶ月時点での差肺血栓塞栓症の再発、症候性深部静脈血栓症、大出血、3ヶ月と6ヶ月時点での死亡、フィルター合併症である。
結果
IVCフィルター併用群では、193例でIVCフィルターの留置に成功し、3ヶ月時点で抜去が試みられた164例のうち153例で抜去に成功した。3ヶ月までに、肺血栓塞栓症の再発はIVCフィルター併用群で6例(3%、全例死亡)、抗凝固療法単独群で3例(1.5%、うち2例死亡)で認められた(フィルターの相対リスク2.00、95%CI0.51−7.89)。結果は6ヶ月の時点でも同様であった。他のアウトカムでも両群間に有意差はなかった。フィルター血栓症は3例で認められた。
結論
重症な急性肺血栓塞栓症患者では、抗凝固療法に加え回収可能型IVCフィルターを留置することは、肺血栓塞栓症の再発を減少させなかった。抗凝固療法で治療可能な患者に対しては、このタイプのフィルターの使用は支持できない。
◯この論文のPICOはなにか
P:深部静脈血栓症を有する急性肺血栓塞栓症
I:抗凝固療法に加え、回収可能型IVCフィルターの留置
C:抗凝固療法のみ
O:3ヶ月時点での致死的、もしくは症候性の肺血栓塞栓症の再発
inclusion criteria:18歳以上、下肢の深部もしくは表在静脈に血栓を有する急性症候性肺血栓塞栓症、重症基準をひとつ以上満たすこと(75歳以上、活動性悪性腫瘍、慢性心不全、慢性呼吸不全、脳梗塞による下肢麻痺、腸骨静脈の血栓、右室機能不全もしくは心筋障害)
右室機能不全もしくは心筋障害とは、右室拡大(右室/左室比0.9)、エコーでの肺高血圧(推定肺動脈圧40mmHg以上)、BNP・NT−proBNP・トロポニンI・トロポニンTの異常値と定義する。
exclusion criteria:抗凝固療法が行えない患者、適切な抗凝固療法にもかかわらず再発している患者、すでにIVCフィルターが留置されている患者、下大静脈に血栓がありIVCフィルターが留置困難な患者、3ヶ月以内に非悪性腫瘍の手術を行った患者、10日以内に悪性腫瘍の手術が行われた患者、造影剤アレルギー、血清Cr>2.04mg/dl、生命予後6ヶ月以内、妊娠
◯baselineは同等か
慢性呼吸不全は有意にIVCフィルター併用群で多かった。
◯結果
地域:フランス
登録期間:2006年8月〜2012年7月
観察期間:6ヶ月
無作為化:中央割り付け(interactive voice response system)、ブロック無作為化、施設と血清Cr値で層別化
盲検化:試験の性質上、患者と治療介入者は盲検化できない。アウトカム評価者は盲検化されている。
必要症例数:各群200例(抗凝固療法単独群のイベント率が8.0%、IVCフィルターにより75%の相対リスク低下、power80%、αlevel0.05として算出)
症例数:IVCフィルター併用群200例、抗凝固療法単独群199例と必要症例数をほぼ満たしている。
追跡率:IVCフィルター併用群198/200例(99%)、抗凝固療法単独群190/199例(95.4%)
解析:ITT解析
スポンサー:IVCフィルターはALN Implants Chirurgicauxより提供。
IVCフィルター併用群200例のうち、195例でIVCフィルターの留置が試みられ、193例で留置に成功。そして、3ヶ月時点でフォローアップされている180例のうち、164例でIVCフィルターの抜去が試みられ、153例(93.3%)で成功している。一方、抗凝固療法単独群では6例でIVCフィルターが留置された(4例は侵襲的処置や手術のため、2例は抗凝固療法による出血のため)。
◯感想/批判的吟味
・PEの再発律が想定(8.0%)よりかなり低い。
・近位部DVTは70%で、残りの30%は遠位もしくは表在なので、近位の症例に絞った方が良かったのでは。
・慢性期の抗凝固療法として、フォンダパリヌクスが使われており、日本の状況とは異なる。
・NOACは使用されていない。
・ワルファリンのTTRは60%ほどでコントロールが良いとは言えないが、それでもPEの再発は、この程度しか起きていない。
・IVCフィルターが回収できない症例が存在し、より長期で問題になる可能性がある。
下肢静脈血栓が残存する肺血栓塞栓症において、抗凝固療法に加えIVCフィルターを留置しても、PEの再発は抑制できない。