Five-Year Outcomes after Off-Pump or On-Pump Coronary-Artery Bypass Grafting
N Engl J Med. 2016 Oct 23. [Epub ahead of print]
背景
心拍動下バイパス手術(off-pump)と人工心肺使用心停止下バイパス術(on-pump)について、術後30日、1年での複合アウトカム(死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全)に有意な差がないことを、以前報告した。そして、術後5年の結果を報告する。
方法
冠動脈疾患(CAD)を有する患者4752例を、off-pumpまたはon-pumpCABGに無作為に割り付けた。死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、再血行再建(CABGもしくはPCI)の複合エンドポイントである。フォローアップ期間の中央値は4.8年である。
結果
off-pump群、on-pump群で複合エンドポイントに有意差はなかった(23.1%vs23.6%、off-pumpのHR0.98、95%CI0.87−1.10)。再血行再建はoff-pump群で2.8%、on-pump群で2.3%と有意差はなく(HR1.21、95%CI0.85−1.73)、それを含め、複合エンドポイントのそれぞれについても有意差はなかった。副次評価項目は患者一人あたりの医療費で、これもoff-pump群、on-pump群で有意差はなかった($15107vs$14992、群間差$115、95%CI-$697to$927)。QOLについても群間差はなかった。
結論
術後5年での、死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、再血行再建の複合エンドポイントはoff-pump、on-pumpで有意差はなかった。
◇この論文のPICOはなにか
P:CABGが予定されているCAD患者
I:心拍動下冠動脈バイパス術(off-pump群)
C:人工心肺使用心停止下冠動脈バイパス術(on-pump群)
O:死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、腎不全、再血行再建の複合エンドポイント
inclusion criteria:以下のうち1つ以上のリスクがあること(70歳以上、末梢血管疾患、脳血管疾患、70%以上の頸動脈狭窄、腎機能障害)、60−69歳であれば以下のうち1つ以上・55−59歳であれば2つ以上のリスクがあること(糖尿病、ACSにより緊急血行再建を要する状態、EF<35%、1年以内に喫煙歴があること)
exclusion criteria:記載なし
◇baselineは同等か
(NEJM2016;366:1489-1487より抜粋)
病変数にのみ群間差あり。
◇結果
地域:19ヶ国79施設
登録期間:2006年11月〜2011年10月
観察期間:4.8年間(中央値)
無作為化: 24-hour automated voice-activated telephone randomization serviceを用いて無作為化を行っている。
盲検化:試験の性質上、open-label。
必要症例数:4700例(30日後の死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、腎不全を複合エンドポイントとして、28%の相対リスク低下、power80%、また5年後の上記の複合エンドポイントに再血行再建を加えたイベントに対し相対リスク低下20%、power90%として算出)
症例数:4752例(off-pump群2375例、on-pump群2377例)
追跡率:98.8%
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし
off-pump群の7.9%(184例)でon-pumpに、on-pump群の6.4%(150例)でoff-pumpにクロスオーバーあり。
second coprimary outcomeは、5年間の死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、血液透析を要する腎不全、再血行再建の複合エンドポイント。全く差がない結果。
◇批判的吟味
・primary outcomeに有意差はないが、必要症例数は満たしている。
・割り付け通りにCABGが行われたのは両群ともに90%以上で追跡率も良い。
・off-pumpだとグラフト数が少なかったり、途中でon-pumpに切り替えられたりということがあるが、それでも長期的なアウトカムに差はなかった。
・off-pumpでグラフト開存率が低いなら、心筋梗塞や死亡などへの影響は、これから出てくるのではないか。
◇感想
off-pumpとon-pumpに長期的なアウトカムに差があるかを検証した試験で、死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、血液透析を要する腎不全、再血行再建の複合エンドポイントは、両群に有意差はなかった。
off-pumpとon-pumpのどちらが優れているかについては議論がある様。短期的には、off-pumpでのaortic non-touch techniqueにより脳梗塞が減ることや、人工心肺使用による臓器障害を抑えられるが、長期的にはグラフト開存率が低いことによる心筋梗塞・再血行再建、ひいては死亡が増えるという懸念がある。日本では約60%がoff-pumpで行われるということで、グラフト開存率は海外より良く長期的なアウトカムも期待できるのかもしれない。