冠動脈多枝病変では、PCIよりCABGの方が予後が良いです。それはCABGに心筋梗塞予防効果があるためですが、CABGでは左内胸動脈(LITA)が使われるのが一般的です。
観察研究では、内胸動脈を片側のみ用いたCABGより、左右の内胸動脈を用いたCABGの方が、死亡率を低下させることが報告されています。
このART試験は、両側内胸動脈を用いることで、LITAのみの場合と比べ生命予後を改善させるか検証したRCTで、5年の時点では死亡率に差はありませんでした。10年ではどうなのでしょうか。
Bilateral versus Single Internal-Thoracic-Artery Grafts at 10 Years
N Engl J Med 2019; 380:437-446
【PICO】
P:冠動脈多枝病変
I:両側の内胸動脈を用いたCABG
C:片側の内胸動脈を用いたCABG
O:全死亡
secondary endpoint:全死亡、心筋梗塞、脳梗塞、再血行再建、出血、創部合併症
exclusion criteria:冠動脈1枝病変、同時の弁膜症手術、CABGの既往
【試験の概要】
デザイン:RCT(オープンラベル、非劣性試験など)
地域:オーストラリア、オーストリア、ブラジル、インド、イタリア、ポーランド、イギリス
登録期間:2004年6月〜2007年12月
観察期間:10年
症例数:3102例(両側群1548例、片側群1554例)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし
【患者背景】
群間差なし。
ざっくりと。年齢63歳、男性85%、白人90%、インスリン依存性糖尿病6%、陳旧性脳梗塞3%、OMI40%、
【結果】
片側内胸動脈群で内胸動脈を使用したのは96.1%、両側内胸動脈群で両側とも内胸動脈を使用できたのは83.6%。両群とも約40%でoff-pumpで行われている。
橈骨動脈は、両側群で19.4%、片側群で21.8%使用されている。
10年時点での薬剤に群間差なし。
アスピリン81%、β遮断薬74%、スタチン90%、AEC阻害薬/ARB72%。
サブグループ
糖尿病、70歳未満、off pumpかon pumpか、橈骨動脈の有無、グラフト本数、EF<50%などすべてのサブグループでも有意差なく、一貫した結果。
【まとめと感想】
両側群で想定よりクロスオーバーが多かったり、片側群で橈骨動脈使用率がちょっと多かったり、両群の差を薄める要因はあるかもしれませんが、CABGで内胸動脈を両側使おうが、LITAだけにしようが、生命予後に変わりないという結果でした。