高血圧症

SPRINT試験 心血管リスクを有する高血圧患者の降圧目標

A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control.
N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2103-16

《要約》
背景
糖尿病のない患者において、心血管疾患の罹患率と死亡率を減少させる最適な収縮期血圧は明らかではない。

方法
糖尿病以外の心血管リスクを有する収縮期血圧130mmHg以上の患者9361例を、収縮期血圧120mmHg未満を目標にする群(厳格降圧群)と140mmHg未満を目標にする群(標準降圧群)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳梗塞、心不全、心血管死である。

結果
1年後の平均収縮期血圧は、厳格降圧群では121.4mmHg、標準降圧群では136.2mmHgであった。標準降圧群より厳格降圧群で主要評価項目の発生がより低かったため(1.65%/年 vs 2.19%/年、HR:0.75、95%CI:0.64−0.89)、介入は早期に中止になった。全死亡も厳格降圧群で少なかった(HR:0.73、95%CI:0.60−0.90)。転倒による外傷に差はなかったが、低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害または急性腎不全などの重大な有害事象は厳格降圧群で多かった。

結論
糖尿病のない心血管イベントのハイリスク患者において、収縮期血圧120mmHg未満を目標にすることは、140mmHg未満を目標にすることと比較し、いくつかの有害事象は増加するが、致死的・非致死的な心血管イベントと全死亡は減少する。

◯この論文のPICOはなにか
P:収縮期血圧130mmHg以上の糖尿病と脳梗塞の既往はないが心血管リスクを有する患者
I:収縮期血圧120mmHg未満を目標に降圧療法を行う(厳格降圧群)
C:収縮期血圧140mmHg未満を目標に降圧療法を行う(標準降圧群)
O:心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳梗塞、非代償性心不全、心血管死の複合エンドポイント

inclusion criteria:50歳以上、収縮期血圧130−180mmHg、心血管リスクを有すること(脳梗塞以外の心血管疾患、多発性嚢胞腎以外の慢性腎臓病、eGFR20−60ml/1.73m2体表面積:MDRD式による、フラミンガムリスクスコアで10年間の心血管リスクが15%以上、75歳以上)
exclusion criteria:糖尿病、脳梗塞の既往

手順
最初の3ヶ月は1ヶ月おきに受診する。厳格降圧群では収縮期血圧120mmHg未満を目標に、標準降圧群では収縮期血圧135−139mmHgを目標にする。血圧測定は、受診時に5分間座位で安静にした後に、オムロン Model 907で行う。3回測定し、その平均を用いる。標準降圧群では、収縮期血圧が130mmHg未満となった場合と、2回連続の受診で130−134mmHgとなった場合に、降圧薬の減量を行う。

◯baselineは同等か
スタチンの内服率以外は同等。
baseline1
baseline2

◯結果
地域:アメリカ
登録期間:2010年11月〜2013年3月
観察期間:3.26年(中央値) 予定されていた平均観察期間は5年
無作為化:施設ごとに層別化した上で無作為化されている。無作為化の方法は本文には記載されていない。
盲検化:open-label、outcome評価者は盲検化されている。
必要症例数:9250例(標準降圧群で主要評価項目の発生が2.2%/年、厳格降圧療法により20%のリスク低下、power88.7%、フォローアップ不能2%/年)
症例数:9361例(厳格降圧群:4678例、標準降圧群:4683例)
追跡率:厳格降圧群4189/4678例=89.5%、標準降圧群4086/4683例=87.3%
解析:ITT解析
スポンサー:アジルサルタン、アジルサルタンとクロルタリドンの合剤は武田薬品とアーバーファーマシューティカルズから提供。解析への関与はない。

result

◯感想/批判的吟味
・血圧の測定方法は、家庭血圧の測定結果により近いだろう。
・厳格降圧群で、心不全と心血管死(心筋梗塞の発生に群間差がないので、心不全死で差がついているものと考える)が多いが、baselineで心不全の有無、β遮断薬やACE阻害薬/ARBの内服率について検討されていない。
・open-labelで心不全というソフトエンドポイントで差があるため、解釈には注意が必要(ただ、心血管死も減っており、厳格降圧群で心不全死が減っているということだろう)。
・早期終了になっているため治療効果を過大評価しやすい点には注意が必要だが、primary endpointは560例ほど発生しているので、評価するには十分なイベント数であると思われる。
・施設ごとの層別化なので、隠匿化されにくい。
・ACE阻害薬/ARBが強化療法群で多く処方され、そのために心不全が減った可能性がある。
・低血圧・失神は増える。腎機能は悪くなる。腎機能障害がより長期のスパンで見た場合に、outcomeにどのような影響を与えるかは気になるところ。

この結果を受けて、降圧目標を120mmHgにするかどうかは微妙なところ。primary endpointに対するNNTは3.26年で63なので、むしろ他に管理できるリスクがあれば、そちらに対して介入していったほうがいいのかもしれない。