心房細動でワーファリン治療がされている患者では、侵襲的な処置や手術の際にワーファリンを中止しヘパリンを使用することが一般的である。しかし、その有効性や安全性は確かめられていない。この試験では、ヘパリンブリッジを行わないことで、血栓塞栓イベントが有意に増加させず出血イベントを減らすことを検証している。
Perioperative Bridging Anticoagulation in Patients with Atrial Fibrillation
〇この論文のPICOはなにか
P:待機的手術もしくは侵襲的処置が予定されており、ワーファリンを内服している心房細動患者
I:周術期にプラセボを投与(非ブリッジ群)
C:周術期に低分子ヘパリン(ダルテパリン100IU/kg 2回/日 皮下注)を投与(ブリッジ群)
O:30日以内の脳梗塞、全身性塞栓症、TIA及び大出血
Inclusion criteria:待機的手術もしくは侵襲的な処置が予定されている慢性もしくは発作性心房細動患者(ホルター心電図、ペースメーカ、心電図にて確認)、3ヶ月以上ワーファリンを内服している、CHADS2スコアが1点以上、
Exclusion criteria:機械弁、12週以内の脳梗塞・全身性塞栓症・TIAの既往、6週以内の大出血、クレアチニンクリアランス30ml/min未満、血小板10万/mm3未満、心臓手術、頭蓋内手術、脊椎手術
Study designとしては、手術5日前にワーファリンの内服を中止し、3日前から1日前まで低分子ヘパリンもしくはプラセボを投与する。術後、出血リスクが低い場合は24時間以内に、出血リスクは高い場合は48-72時間以内に低分子ヘパリンもしくはプラセボを再開する。それらは術後5日目まで使用する。ワーファリンも術翌日までに再開する。
〇baselineは同等か
同等である。年齢は71歳ぐらいで、7割が男性。9割が白人。CHADS2スコアは平均2.4点ほどで(2点が40%で、1点と3点が20%ずつ、4点が10%といった感じ)、心不全・高血圧・年齢・糖尿病・脳梗塞の既往の割合も有意差なし。腎機能障害は10%ほど含まれている。抗血小板薬は40%弱で使用されている。
行われた処置/手術の約90%は出血リスクが低いものである。その中でも半分が内視鏡で、2割がPCIなどである。ペースメーカは出血のリスクの高い手術に分類されており、両群3例ずつしか登録されていない。
〇ラムダム化されているか
Randomized, double-blind, placebo-controlled trialという記載はありますが、割付方法と隠匿化については本文に記載がありません。Supplementary Appendixは確認してないので、具体的な方法についてはわかりません。
〇症例数は十分か
低分子ヘパリンを投与した群での血栓塞栓症の発生率は1%と仮定。αlevel:0.05、power:80%、非劣性マージン1%としている。また、出血についてはブリッジ群で3.0%、非ブリッジ群で1.0%と仮定されている。登録の撤回が10%があると予想し、必要症例数は1882例と算出され、登録された症例は1884例であったため、症例数は十分である。
〇盲検化されているか
患者、治療介入者、outcome評価者は盲検化されている。
解析者は記載なし。
〇すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
両群で同意の撤回など4%ほどの脱落がある。ITT解析ではそれを除外されており、modified ITT解析であると考えられる。
〇結果
ITT解析では、血栓塞栓症が非ブリッジ群で0.4%、ブリッジ群で0.3%であり、非劣性が聡明された。また、大出血に関しては、非ブリッジ群で1.3%、ブリッジ群で3.2%と非ブリッジ群で有意に少ない結果であった。
〇批判的吟味/感想
出血リスクが低い処置/手術であれば、ヘパリンブリッジが不要であることが示された。日本では低分子ヘパリンではなく、未分画ヘパリンが使用されることが一般的だと思うが、未分画ヘパリンの方が出血リスクは高いわけだし、ヘパリンブリッジを行わないことでなおさら出血リスクは減ると思われる。
この試験では出血リスクが高い処置/手術は10%程度しか含まれておらず、それらの処置/手術では、凝固は亢進する方向へ働くはずだし、そうなると塞栓症のリスクは増加する。なので、この試験ではそういった出血リスクの高い処置/手術の際のパリンブリッジが不要かどうかは判断できない。
試験に使用した低分子ヘパリン(ダルテパリン)はエーザイが提供している。非ブリッジ群の非劣性を証明しようとして、かつ出血イベントが減ることが予想された試験に、よく提供したなと思う。