弁膜症

感染性心内膜炎の初期治療が奏功していれば、経口抗菌薬に切り替えてもいいかもしれない

感染性心内膜炎(IE)では、静注が基本です。経口薬に切り替えた経験はありません。

治療の失敗は悲惨な結果に繋がることを考えると、”腸管からの吸収”という余計なステップがある経口薬は使いづらいと感じます。

そんなIEで経口薬への切り替えをトライするという、なかなか勇気ある?RCTです。

Partial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis.
N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):415-424.

【PICO】
P:感染性心内膜炎
I:経口抗菌薬にスイッチ
C:抗菌薬静注を継続
O:全死亡、計画されていない心臓手術、臨床的に明らかな塞栓症、同じ起炎菌による菌血症の再燃

inclusion criteria:左心系のIE、Duke診断基準を満たしていること、起炎菌がstreptococcus・Enterococcus faecalis・Staphylococcus aureus・CNSのいずれかであること、安定した状態であること(初期治療への反応が良く治療開始から10日以上経過している、弁手術を行った場合は術後7日以上経過している)、

手順:ランダム化の前に経食道心エコー(TEE)を行い、膿瘍や手術を要する弁異常がないか確認する。ランダム化の時点で予定治療期間が10日以上あること。経口抗菌薬は異なるクラスの薬剤を2剤併用する。静注群は入院で治療。経口群は2−3回/週外来へ通院する。予定された治療が終わる1−3日前にTEE再検。治療終了後、1週間後、1,3,6ヶ月後に外来受診。

【試験の概要】
デザイン:RCT(オープンラベル、非劣性試験:非劣性マージン10%)
地域:デンマーク
登録期間:2011年7月15日〜2017年8月30日
観察期間:6ヶ月
症例数:400例(経口群201例、静注群199例)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし

【患者背景】
同等。ざっくりと。
年齢67歳、男性3/4、基礎疾患も差はない(DM、腎不全、透析、COPD、悪性腫瘍)、起炎菌 Streptococcus50%、Enterococcus faecalis25%, Staphyrococcus aureus20%, CNS5%、人工弁25%、ペースメーカ10%、既知の弁膜症40%、半分が大動脈弁、1/3が僧帽弁、残りが両方

【結果】
割り付けられた治療法の期間は、経口群17(14−25)日、静注群19(14−25)日。

primary endpoint
経口群9.0% vs 静注群12.1%、P=0.40

【まとめと感想】
初期治療によって安定したIEは、経口薬に切り替えても静注薬に劣らないという結果でした。

バイオアベイラビリティが高く作用機序の異なる薬剤を2剤併用することで、治療失敗のリスクを回避できるのかもしれません。ただ、この結果で、「経口薬に切り替えてさっさと退院させるかー」という感じにはなりません。早期に退院させなければならない事情があれば、やってもいいかもしれませんが。

ケチをつけるわけではないですが、非劣性の証明なので非劣性マージン分(この場合は10%)だけ劣る可能性があることは認識しておいた方がいいでしょう。