感染症

黄色ブドウ球菌菌血症に対してリファンピシンをルーチンで併用すべきではない

Adjunctive rifampicin for Staphylococcus aureus bacteraemia (ARREST): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial
Lancet. 2018;391(10121):668-678.

米国感染症学会 (IDSA) のガイドラインでは、MSSA菌血症はβラクタム薬静注を少なくとも14日間続け、MRSA菌血症はグリコペプチドで治療するよう推奨している。この推奨は、観察研究と臨床的な経験に基づいている。

リファンピシンは、βラクタム薬やグリコペプチドより、細胞、組織、バイオフィルムへの浸透が良いため、重症黄色ブドウ球菌感染症のアウトカムを改善すると考えられてきた。3つのRCTと1つのコホート研究のシステマティックレビューでは、リファンピシン併用54例、標準治療44例と症例数は少ないが、リファンピシンの併用は全死亡や臨床的・細菌学的治療の失敗の減少と関連があった。

黄色ブドウ球菌感染症964例の前向き観察研究では、人工物感染のサブグループで、リファンピシン併用は30日死亡と60日死亡の低下と関連があった。

このように、黄色ブドウ球菌感染症に対しリファンピシンを併用する根拠は決して強いものではなく、リファンピシンには肝毒性や薬物相互作用も多いことから、リスクを上回るベネフィットがあるかは明らかではない。

このARREST試験は、MRSAを含む黄色ブドウ球菌菌血症に対し標準治療にリファンピシンを併用することがアウトカムを改善するか検証したRCTである。

【PICO】
P:MSSAまたはMRSAの菌血症
I:リファンピシン600or900mg経口または静注
C:プラセボ経口または静注
O:12週時点での細菌学的に証明された治療の失敗または再発+全死亡

inclusion criteria:少なくとも血培1セットからMSSAまたはMRSAの検出、抗菌薬開始から96時間以内

procedure:リファンピシンは600or900mgを1日1−2回に分けて投与。14日間か、抗菌薬中止するまで併用する。14日以降はオープンラベルでリファンピシンの使用可。臨床医が薬剤の中止が必要と判断すれば、中止可。12週まで観察する。

【試験の概要】
デザイン:RCT (二重盲検、プラセボ対照)
地域:イギリス 29施設
登録期間:2012年12月10日〜2016年10月25日
観察期間:12週間
症例数:770例 (リファンピシン併用群374例、プラセボ併用群396例)
解析:mITT解析
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【患者背景】
ざっくりと。年齢65歳、MRSAが6%、自然弁のIE4%、人工弁・人工関節2%、血管内デバイス5%、皮膚・軟部組織感染18%、血管内カテーテル17%、SOFA2点、抗菌薬投与開始からランダム化まで62時間、リファンピシン耐性菌0%。

【結果】
最初のprimary endpointは全死亡、細菌学的に証明された治療の失敗または再発+全死亡の2つで、必要症例数は940例だったが、登録が進まず、細菌学的に証明された治療の失敗または再発+全死亡をprimary endpointに変更し、必要症例数を770例とした。

14日以内の試験薬の中止は、リファンピシン併用群で164/370例 (44.3%)、プラセボ併用群で 119/388例 (30.7%)だった。

リファンピシン併用群 vs プラセボ併用群
細菌学的に証明された治療の失敗または再発+全死亡 (primary endpoint)
17% vs 18% 絶対リスク差:-1.4% (95%CI:-7.0to4.3)

治療の失敗 (post hoc analysis)
1% vs 1% P=0.82

再発 (post hoc analysis)
1% vs 4% P=0.01、NNT=29

死亡 (post hoc analysis)
15% vs 13% P=0.30

有害事象のうち有意に差があったものは、投与量調整を要する有害事象 (17%vs10%)、胃腸障害、腎・尿管障害、薬物相互作用、治療薬の中止で、いずれもリファンピシン併用群で多かった。

【まとめと感想】
黄色ブドウ球菌菌血症に対し、標準的治療のみでも、リファンピシンを併用しても、全死亡や治療の失敗に差はない。なので、黄色ブドウ球菌菌血症だからと言って、ルーチンに併用する必要はない。

ただ、患者背景は皮膚軟部組織や血管内カテーテルなどが感染源になっている症例が多く、またSOFAも軽めなので、重症感染 (MRSAを含む) でもリファンピシンを併用しなくて良いとは結論できない。そして、今までの観察研究で示されているような人工物の感染も、割合が少ないため、リファンピシン併用の効果は定かではない。