食後高血糖に対し介入し心血管アウトカムを評価したRCTに、NAVIGATOR試験がある。IGTを対象にナテグリニドとプラセボの2群にわけ、糖尿病の新規発症と心血管アウトカムについて評価した。結果は、心血管アウトカムに差はなかったが、糖尿病の新規発症はナテグリニド群で有意に多かった(1)。
食後高血糖は心血管リスクになるが、薬剤による食後高血糖の是正が心血管リスクの減少に繋がるわけではないことを表している。
STOP-NIDDM試験では、アカルボースがIGTから糖尿病への進展を抑制し、その二次解析では心血管アウトカムを49%減少させた。ただ、これはサンプルサイズが小さく、また二次解析でもあったため、偶然による結果の可能性があり、質が高いエビデンスではない(2)。
このACE試験は、アカルボースがIGTの心血管イベントを抑制するか検証したRCTである。
Effects of acarbose on cardiovascular and diabetes outcomes in patients with coronary heart disease and impaired glucose tolerance (ACE): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Nov;5(11):877-886.
【PICO】
P:耐糖能異常 (IGT) +冠動脈疾患
I:アカルボース
C:プラセボ
O:5point MACCE (心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、UAPによる入院、心不全による入院)
secondary endpoint:3point MACCE (心血管死、心筋梗塞、脳梗塞)、全死亡、心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、新規の糖尿病など
inclusion criteria:50歳以上、75gGTTで診断されたIGT、冠動脈疾患 (OMIやUAPの既往, 安定狭心症)
procedure:アカルボースは50mgを1日3回。50mgとしたのは中国でよく処方されている容量であり、100mgのアカルボースを用いたSTOP-NIDDM試験では中断が多く、消化器症状は容量依存的に現れるため。受診は、試験開始1,2,4ヶ月後、以降4ヶ月おき。その際に、空腹時血糖・低血糖エピソード・血圧・体重・臨床的アウトカム・アドヒアランスを確認する。年に1回、75gOGTTを行い、またHbA1c・血清Cr・eGFRを測定。糖尿病の診断がされた患者は、盲検化されたままメトホルミンや他の経口血糖降下薬で糖尿病の治療を開始する。
【試験の概要】
デザイン:RCT (double-blind)
地域:中国
登録期間:2009年3月20日〜2015年10月23日
観察期間:中央値5.0年 (IQR:3.4-6.0)
症例数:6522例 (アカルボース群3272例、プラセボ群3250例)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり (Bayer)
途中でプロトコールの変更あり (primary endpointを5point MACCEへ変更し、必要症例数を7500→6500例に減らした)
【患者背景】
両群に差はなかった。
ざっくりと。年齢64歳、男性3/4、BMI25、腹囲91cm、血圧130/78mmHg、HbA1c5.9%、eGFR88ml/min、HDL1.18mmol/L、LDL2.25mmol/L、OMIとUAPの既往が40%ずつで安定狭心症が20%、93%でスタチン、98%で抗血小板薬。
【結果】
割り付けられた薬剤の内服中断は、アカルボース群49%、プラセボ群51%で、内服していた期間はそれぞれ3.0年 (IQR:1.3-5.0), 3.0年 (IQR:1.1-4.9)だった。
治療開始1年後のHbA1cはアカルボース群で有意に低く(5.88 vs 5.94%)、75gOGTT2時間値も有意に低かった (8.4 vs 8.7mmol/L)。
アカルボース群 vs プラセボ群
5point MACCE (primary endpoint)
14.4% vs 14.7%, HR0.98 (0.86-1.11)
心血管死+心筋梗塞+脳梗塞
8.7% vs 9.2%, HR0.95 (0.81-1.11)
全死亡
6.6% vs 6.7%, HR0.98 (0.81-1.19)
心血管死
4.4% vs 5.0%, HR0.89 (0.71-1.11)
心筋梗塞
3.7% vs 3.3%, HR1.12 (0.87-1.46)
脳梗塞
2.3% vs 2.4%, HR0.97 (0.70-1.33)
新規の糖尿病
13.3% vs 15.8%, HR0.82 (0.71-0.94)
【まとめと感想】
IGTに対するアカルボースを用いた介入は、新規の糖尿病発症を抑制するが、心血管イベントは減らさない。新規の糖尿病発症を抑制したといっても、一方はプラセボであり、血糖値やHbA1cにも統計学的な差がでているので、それがアカルボースという薬剤独自の糖尿病抑制効果なのかはわからない。薬効をみるなら、ターゲットとなる血糖やHbA1cは揃えた方がよかったのではないか。
STOP-NIDDM試験でアカルボースが良さげな結果を出していたので、ちょっと残念。ただ、アカルボースは比較的安全で安価な薬剤なので、それ自体に心血管イベントを抑える効果がなかったとしても、糖尿病の早期に治療介入によって得られるlegacy effectを期待して使うならいいかも。
STOP-NIDDM試験では、アカルボースの1回量は100mgだったので、もしかしたら容量で違いがあるかもしれないが、容量依存的に増える消化器症状には注意。
(1) JAMA. 2003;290:486-494.
(2) N Engl J Med. 2010;362:1463-76.