心不全

LVEF>40%以上のSTEMIでも、抗アルドステロン薬は有効なのか

アルドステロンは心筋の線維化を促進し、心筋リモデリングを引き起こすと言われている。心不全では血清レニン活性や血中アルドステロン濃度は上昇しており、それが予後の悪化に繋がる。

STEMI発症後、LVEFが40%を下回る場合には、標準治療に抗アルドステロン薬を加えることで生命予後改善効果が示されている (EPHESUS試験)(1)。LEVF>40%のSTEMIで抗アルドステロン薬の有効性を検証したRCTでは、死亡率の低下を認めたものは1つしかなく、その効果は決定的と言えなさそう (ALBATROSS試験)(2)

Aldosterone Antagonist Therapy and Mortality in Patients With ST-Segment Elevation Myocardial Infarction Without Heart Failure
A Systematic Review and Meta-analysis

JAMA Intern Med. Published online May 21, 2018. doi:10.1001/jamainternmed.2018.0850

【概要】
心不全のない、あるいはLVEF>40%のSTEMIに対する抗アルドステロン薬の有効性を検証したSR。
RCTのみ統合 (臨床的なアウトカムや生化学データがないものは除外)。
統合した試験の観察期間は、6ヶ月〜1年。
random effect model。

P:心不全のない、またはLVEF>40%のSTEMI
I:標準治療 + 抗アルドステロン薬の内服 (スピロノラクトン・エプレレノン・カンレノ酸カリウム)
C:標準治療 ± プラセボ
O:死亡、心筋梗塞、新規のうっ血性心不全、心室性不整脈、LVEFの変化、血清Cr値、血清K値

出版バイアスは、funnel plotを視覚的に判断。死亡というアウトカムのみ評価し、出版バイアスは認めなかった。他のアウトカムに関しては、統合した試験の数が少なかった (<10試験) ので評価していない。

【結果】
抗アルドステロン薬 vs 対照
死亡
I2=0%
2.4% vs 3.9% HR:0.62 (95%CI:0.42-0.91)

心筋梗塞
I2=0%
1.6% vs 1.5% OR:1.03 (95%CI:0.57-1.86)

うっ血性心不全
I2=0%
4.3% vs 5.4% OR:0.82 (95%CI:0.56-1.20)

心室性不整脈
I2=13%
4.1% vs 5.1% OR:0.76 (95%CI:0.45-1.31)

死亡は有意に減少。ひとつひとつのRCTのサンプルサイズ・イベント数が少なく、2つの試験で全体に占めるウエイトが67%あり、それに引っ張られている可能性はあるが、I2=0%で視覚的に見ても一貫性はありそう。ちなみに上述のALBATROSS試験のウエイトは9%。

他の心筋梗塞・うっ血性心不全・心室性不整脈といったアウトカムに有意な差はなかった。

LVEFは1.8%とわずかではあるが有意に改善しており、血清Cr値や血清K値には差はなかった。

【まとめ】
LVEF<40%のSTEMIでは、抗アルドステロン薬の有益性が示されていたが、LVEF>40%でも生命予後改善効果が示された。

ただし、この結果は鵜呑みにはできない。

対照 (標準治療) の死亡率が高いようで、一番ウエイトを占しめていたRCT (45%) では、標準治療群での6ヶ月死亡率が10%近くあり、日本の実臨床からとは違い過ぎる。I2=0%で視覚的にも一貫性はありそうなんだけど・・・。

あと、死亡のハザード比が0.62と効果が高いが、LVEF<40%を対象としたEPHESUS試験での全死亡のハザード比が0.85ということを考えると、そこまでの効果があるのか。

また、LVEF>45%のHFpEFを対象としスピロノラクトンの効果を検証したTOPCAT試験では、3400例も症例数を集めたが、全死亡・心血管死に有意差がなかった。なのに、STEMIに限れば死亡率が改善するのか、という疑問はある (TOPCAT試験にもOMIが25%含まれている)(3)。もしこの効果が真実なら、心筋梗塞発症早期から抗アルドステロン薬を使用することが良い結果をもたらしたのかもしれない。

死亡の他に有意差があったものはLVEFの改善だが、これは1.8%と小さく誤差範囲と言っていい。統合されたRCTの観察期間はすべて1年未満だったので、長期のデータが必要になるが、長期的に見れば抗アルドステロン薬により心筋リモデリングが抑制され、LVEFやうっ血性心不全などのアウトカムが、臨床的にも意味のある改善を示す可能性はある。

CrやKには差がなかったようだが、標準治療としてACE阻害薬やARBを使用しているなら、抗アルドステロン薬の併用はCrやKは上昇を招くので、より注意して見る必要がある。

(1) N Engl J Med. 2003;348(14):1309-21.
(2) J Am Coll Cardiol. 2016;67(16):1917-27.
(3) Engl J Med. 2014;370(15):1383-92.