Acute Myocardial Infarction
N Engl J Med 2017; 376:2053-2064
【定義】
・急性心筋梗塞には6つのタイプがある。
type1:アテローム血栓症によるもの
type2:需要と供給のミスマッチ
type3:心筋梗塞による突然死(バイオマーカーやECGなし)
type4a:PCIによるもの
type4b:ステント血栓症
type5:CABGによるもの
【疫学】
・米国ではここ30−40年で減少傾向にあるが、それでもAMIは55万人/年。低所得、中所得の国では増えている。
【病理】
・急性心筋梗塞は、不安定で脂質に富んだ動脈硬化性プラークの破裂や侵食によって起こる。
【初期評価】
・ACSが疑われる場合、来院から10分以内にECGをとり、トロポニン検査を行うこと。
・トロポニンは心筋炎などの心筋障害、心不全、腎不全、呼吸不全、脳梗塞、脳出血、敗血症性ショック、心構造疾患でも上昇する。トロポニンに加えて、CK-MBやミオグロビンを測ることは推奨されていない。
・リスク評価にはTIMIモデル、GRACEモデルが有効。
【初期治療】
・より迅速なprimaryPCIがアウトカムを改善する。
・院外心停止(初期波形VF)に対し、プレホスピタルで低体温療法を開始した2つのRCTがある。病着時の体温は有意に下がっていたが、病着後に低体温療法を開始する場合と比べ退院時のアウトカムは改善しなかった。
・酸素投与はルーチンでされることが多いが、SpO2<90%でない限り酸素投与はすすめられない。酸素投与は、SpO2<90%、呼吸不全など低酸素血症のリスクがある場合のみ勧める。現在、AMI6650例を対象として酸素投与の影響を検証するDETO2X-AMI試験が進行中である。
【治療戦略】
・βblockerは、ショック・LOS・心不全などがなければ、24時間以内に開始。
・アトルバスタチン40−80mg、ロスバスタチン20−40mg(注:日本ではアトルバスタチン20mg、ロスバスタチン20mgが最大量)の高容量のスタチンは、コレステロール低下作用と多面的効果あり。
・ACE阻害薬/ARBは、特にLAD、左室機能不全、心不全への導入が望ましく、24時間以内に開始を。
・OMIがあればアルドステロン拮抗薬を。
(日本では例外的な場所を除いて、120分以内にカテができるところにたどりつけるので、STEMIであればPCI。bivalirudinは使えず、ticagrelorも出番がないので、ASA+クロピドグレルorプラスグレルのDAPT。PCI前後は未分画ヘパリンを使用。)
・ステントは、ベアメタルステントよりコバルトクロム・エベロリムス溶出性ステント(Xience)が最も安全性・有効性(心臓死、AMI、ステント血栓症の減少)が高い。
・非責任病変に対するPCIは議論が分かれる。AHA/ACCのガイドラインでは、非責任病変へのPCI(primaryPCIと同時に、またはstagedPCIで)はclassⅡb。現在、非責任病変に対するPCIのタイミング(primaryPCIと同時かstagedか)を検証するための大規模RCT(COMPLETE試験)が進行中である。
・血栓吸引は、TOTAL試験で180日時点の心血管死、心筋梗塞、心不全を減少させず、30日時点の脳梗塞をわずかではあるが有意に増加させた(0.7%vs0.3%)。AHA/ACCガイドラインでは、ルーチンでの血栓吸引は推奨されていない。
・PCIのアクセスは、大腿動脈より橈骨動脈が出血が少ない。ただ、メタ解析では手技時間はわずかに(2分)増加することが示されている。
【抗血栓療法】
・腸溶性でないアスピリン(=バイアスピリンはダメ)162−325mgの投与。
・維持量は81−325mg。ただし、チカグレロル(ブリリンタ)とプラスグレル(エフィエント)を併用するときは、アスピリンは81mgがよい(注:日本では、ブリリンタはプラビックスとエフィエント(とパナルジン)が使えない時だけ使用可、なので出番なし)。クロピドグレル(プラビックス)を併用するときの至適容量は不明。
・PCI時に速やかにP2Y12阻害薬(プラビックス、エフィエント、ブリリンタ)を投与し、少なくとも1年間は継続すること。
・エフィエントとブリリンタのPCI前のローディングは、効果がなかった。
・プラビックスの効果はCYP2C19に依存する。
・ワルファリンとDAPTの3剤併用は、心房細動、機械弁、静脈血栓塞栓症の際に推奨されるが、出血リスクは増加するため極力短い方がいい。WOEST試験では、抗凝固薬+プラビックスが3剤併用より塞栓リスクを増加させず、出血リスクを低下させた(ハザード比:0.36、95%CI:0.26−0.50)。
・PIONEER AF-PCI試験では、ワーファリンとDAPTの3剤併用、リバロキサバン(イグザレルト)低容量とプラビックスの2剤併用、イグザレルト超低容量(2.5mg)とDAPTの3剤併用の3群に分け、有効性と安全性が検証された。どの群でも心血管死、心筋梗塞、脳梗塞に差はなかったが、出血リスクは、イグザレルトの低容量群と超低容量群で有意に減少した。