Coronary thrombus aspiration: a lesson for clinical medicine.
Lancet. 2015 Oct 12. [Epub ahead of print]
STEMI10732例を対象に、ルーチンの血栓吸引の効果を検証した多施設無作為化試験(TOTAL試験)の1年後のアウトカムが報告された。血栓吸引は1年後の主要評価項目(心血管死、心筋梗塞、心原性ショック、心不全)は、血栓吸引群395/5035例(8%)、PCI単独群394/5029例(8%)と両群に差はなかった。
しかし、PCI単独群と比較し血栓吸引群で有意に脳梗塞の発症が多かった(HR:1.66、95%CI:1.10−2.51)。
TOTAL試験のサブスタディでは、血栓吸引を行ってもOCT上の血栓量は、血栓吸引の有無で変化しなかった。そのため、アウトカムの改善に繋がらなかったのだろう。また、血栓吸引カテーテルの回収の際に塞栓症を起こした可能性がある。
TOTAL試験では、年齢、糖尿病、coronary flow grade、喫煙、責任病変部位、抗凝固療法のタイプでサブグループ解析を行っているが、どのグループも血栓吸引の効果はなかった。
血栓吸引は、病変の全体像の把握、ダイレクトステンティング、ステントのサイズ選択に役立つかもしれないが、臨床的なアウトカムには好影響はなく、脳梗塞をわずかに増やすリスクがある。
◯感想
血栓吸引の効果を検証した最近の試験としては、LAD近位部から中間部が責任病変のAMIを対象にしたINFUSE-AMI試験や、7200例のSTEMIを対象としたTASTE試験があるが、血栓吸引は臨床的なアウトカムを改善しなかった。
そして、TOTAL試験とそれを含めたメタ解析でも、STEMIに対するルーチンの血栓吸引は、臨床的なアウトカムを改善しないことが示され、かつTOTAL試験で血栓吸引が脳梗塞を増やす可能性があることが示唆された。これを受けて、AHAのSTEMIのガイドラインでは、STEMIに対するルーチンの血栓吸引はclassⅡaからclassⅢ:no benefitに引き下げれた。
血栓吸引が臨床的なアウトカムの改善に繋がらないのは、大規模臨床試験で一貫した結果である。なので、血栓吸引をルーチンに行う必要はないだろう。脳梗塞の発生については、手技に関連した血栓や空気の塞栓症と説明されており、血栓吸引群で周術期に脳梗塞の発生が多いが、PCI後6ヶ月まで徐々に差は開いている。
それはPCI手技では説明がつかないので、その原因が知りたいところである(偶然という可能性も十分ある)。このCOMMENTでも、そこについては言及がなかった。