心臓手術

生体弁の潜在性血栓

Possible Subclinical Leaflet Thrombosis in Bioprosthetic Aortic Valves.
N Engl J Med. 2015 Oct 5. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
現在進行中の臨床試験において、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)施行後に脳梗塞を発症した患者で、大動脈弁尖の可動性低下が確認されている。

方法
TAVRの臨床試験の55例と、TAVRまたは外科的大動脈生体弁置換術(surgicalAVR)が行われた2施設のレジストリ132例を解析した。抗凝固療法や臨床転帰(脳梗塞やTIA)のデータに、4DボリュームレンダリングCTのデータを加えた。

結果
CTでの弁尖の可動性低下は、臨床試験では22/55例、レジストリでは17/132例で認められた。弁尖の可動性低下は、multiple bioprosthesis typesでみられた。ワルファリンによる治療的抗凝固療法は2重抗血小板療法(DAPT)と比較し、可動性低下の発生率を減少させる(臨床試験:0% vs 55%, P=0.01、レジストリ:0% vs 29%, P=0.04)。フォローアップCTによる再評価では、抗凝固療法を受けた全11例で、また抗凝固療法を受けなかった1/10例で弁尖の可動性低下に改善が見られた(P<0.001)。臨床試験では、弁尖の可動性低下の有無で脳梗塞またはTIAの発症に有意差はなかった(2/22例、0/33例、P=0.16)。しかし、レジストリでは有意な群間差があった(3/17例、1/115例、P=0.007)

結論
生体弁の大動脈弁で、弁尖の可動性低下が認められている。これは抗凝固療法により改善する。脳梗塞を含む臨床転帰への影響は、さらなる調査が必要である。

◯方法
PORTICO IDE試験と、RESOLVEレジストリ、SAVORYレジストリの登録患者が対象。PORTICO IDE試験は目標症例数1206例のSt.Jude Medicalがスポンサーの臨床試験である。RESOLVEはCedars-Sinai Heart Instituteの、SAVORYはデンマークのRigshospitaletのレジストリである。

PORTICO IDE試験ではTAVR施行30日後にルーチンでCTが撮られており、RESOLVEとSAVORYレジストリではCTを施行する時期は一定ではない。CTの解析は盲検化され、Cedars-Sinai Heart Instituteで行う。弁尖の可動性は、normal, mildly reduced, moderately reduced, severely reduced, immobileに分類される。

神経学的なイベントは、神経科医による診察と画像評価で行う。

◯結果
PORTICO IDE試験より
88例のうち、造影CTを施行しそのデータが利用可能な55例を解析した。22/55例で弁尖の可動性低下が認められ、その内訳はPortico(St.Jude Medical)が16/37例:43%、Sapien XT(Edwards Lifesciences)が6/14例:43%、CoreValve(Medtronic)が0/4例であった。

治療的抗凝固療法(PT-INR>2.0、CT施行前または後7日間)を行っている群では、治療域下もしくは抗凝固療法を行っていない群より、有意に可動性低下が少なかった(0/8例 vs 21/41例、P=0.007)。また、治療的抗凝固療法を行っている群では、DAPTを行っている群より有意に可動性低下が少なかった(0/8例 vs 11/20例、P=0.01)

RESOLVE・SAVORYレジストリより
RESOLVEレジストリ70例、SAVORYレジストリ62例の計132例を解析。105例がTAVR、27例がsurgicalAVRである。弁尖の可動背低下は17/132例に認められ、その内訳はTAVR15/105例(14%)、surgicalAVR(7%)であった。弁尖の可動性低下の有無で、手術からCT施行までの日数に有意差はなかった。

弁尖の可動性低下の自然歴
PORTICO IDE試験で弁尖の可動性低下が認められた22例のうち12例、2つのレジストリで弁尖の可動性低下が認められた17例のうち9例、計21例でフォローアップCTを施行した。11/21例で治療的抗凝固療法を行い、全例で弁尖の可動性が正常化した。

result
(本文より引用)
PORTICO IDE試験では、弁尖の可動性低下の有無で神経学的アウトカムに差はなかったが、レジストリデータでは可動性低下があった場合のTIAが有意に多いという結果であった。

評価するにはもう少し症例数が必要で、さらなる観察が必要であろうが、TAVRでも抗凝固療法をルーチンで行う必要があるかもしれない。