虚血性心疾患

日本人、急性冠症候群二次予防でのゼチーア併用の効果

Low-density lipoprotein cholesterol targeting with pitavastatin + ezetimibe for patients with acute coronary syndrome and dyslipidaemia: the HIJ-PROPER study, a prospective, open-label, randomized trial.
Eur Heart J. 2017 Apr 18.[Epub ahead of print]

◇この論文のPICOはなにか
P:ACS
I:ピタバスタチン2mg+エゼチミブ10mg(エゼチミブ併用群)
C:ピタバスタチン2mg(プラバスタチン単独群)
O:全死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、不安定狭心症、PCIまたはCABGによる血行再建

inclusion criteria:LDLコレステロール100mg/dl以上、中性脂肪400mg/dl以上など
exclusion criteria:ショック、心不全、僧帽弁閉鎖不全症などを合併したACSなど

LDLコレステロールの目標値は、エゼチミブ併用群では70mg/dl、ピタバスタチン単独群では90−100mg/dlとする。

登録時とランダム化後12週時点で、シトステロール・カンペステロール・ラトステロールを用いて、コレステロール吸収について評価する。

◇試験の概要
デザイン:RCT
地域:日本
登録期間:2010年1月〜2013年4月
観察期間:3.86年(中央値)
盲検化:オープンラベル
必要症例数:3000例(ピタバスタチン単独群で10%のイベント発生、エゼチミブ併用群で20%の相対リスクリ減少)
症例数:1734例
追跡率:99.3%(ロストフォローアップ13例)
解析:mITT解析
スポンサー:企業の関与なし(Japan Research Promotion Society for Cardiovascular Diseases)

◇患者背景


(本文から引用)

両群に差はない。半分がSTEMIで、ほとんどの患者でPCIがやられていて、心機能はそこそこ保たれている。

◇結果
【LDLコレステロール】
ピタバスタチン単独群vsエゼチミブ併用群

○登録時
135.6±30.0mg/dl vs 134.8±29.3mg/dl

○3ヶ月後
85.7±23.0mg/dl vs 66.1±22.2mg/dl(P<0.001)

○36ヶ月後
88.5±21.6mg/dl vs 71.3±24.8mg/dl(P<0.001)

LDLコレステロールは、3ヶ月時点で有意に下がる。
その後も、両群とも36ヶ月までほぼ維持。


(本文から引用)

primary endpointに有意差はなく、大きなウエイトを占めるのは血行再建。心筋梗塞と脳梗塞では全く差がない。なぜか、全死亡は有意ではないものの結構差がついている。

◇感想
日本人では、心筋梗塞二次予防というハイリスクな患者を対象としても、ゼチーア(エゼチミブ)の効果は示せなかった。IMPROVE-IT試験でも、18000例というサンプルサイズでも観察期間を7年に延長して、やっと統計学的有意差が示せたのだから、日本人を対象としてこのサンプルサイズだと統計学的な差が出ないのは当然だろう。

そもそもだが、介入群と対照群でLDLコレステロールの目標値が異なるという試験デザインは、おかしいのではないか。純粋にゼチーアの上乗せ効果を見るのであれば、LDLコレステロールの目標値は同じにすべきで、例えばピタバスタチン単独群でその目標値を達成できないなら、ピタバスタチンの増量をするようにすべきじゃないか。

対照群に手加減させておいて、ゼチーアを勝たせようとしているとしか思えない。しかし、LDLコレステロール低下の恩恵を強く受けるであろう心筋梗塞を含め、ゼチーア併用でイベントは抑えられていない。

サブグループ解析では、コレステロールの吸収が亢進しているグループで、ゼチーア併用で効果があったとしている。ゼチーアの作用機序を考えると、理屈にあってそうな感じはするが、それが実臨床で安価で簡便にわからなければ、ちょっと使えない。

まあ、これを検証するには、コレステロールの吸収が亢進している症例を対象にゼチーアの効果をみなければ結論は出せない。

ピタバスタチン2mgでLDLコレステロールが下がらない、あるいはハイリスクのためより下げたい場合には、ゼチーアを追加するより、ピタバスタチンを4mgに増量する方が、エビデンスとしても価格としてもリーズナブルだと思うが。