血管疾患

合併症のない大動脈解離stanfordBへのステントグラフト INTEAD試験

Randomized comparison of strategies for type B aortic dissection: the INvestigation of STEnt Grafts in Aortic Dissection (INSTEAD) trial.
Circulation. 2009 Dec 22;120(25):2519-28.

《要約》
背景
胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)は大動脈解離stanfordBに対する新しいコンセプトである。緊急疾患の救命はできるが、安定した解離に対するTEVARの予後や生存率は明らかではない。

方法・結果
発症後少なくとも2週間は臨床的に安定している140例を、至適薬物療法+待機的TEVAR(72例)と、至適薬物療法のみ(68例)の2群に無作為に割り付けた。主要評価項目は2年間の全死亡、副次評価項目は大動脈関連死、プログレッション(追加の血管内治療、開胸手術)、大動脈リモデリングである。2年の生存率は薬物療法群で95.6%±2.5%、TEVAR群で88.9%±3.7%と有意差はなかった。しかしながら、この試験はパワー不足であった。さらに、大動脈関連死に差はなく、大動脈関連死(大動脈破裂)とプログレッションを合わせても、両群に差はなかった。神経学的有害事象は、TEVAR群で3例(対麻痺1例、脳梗塞1例、一過性不全対麻痺1例)、薬物療法群で1例(不全対麻痺)であった。大動脈リモデリングはTEVAR群で91.3%、薬物療法群で19.4%であった。

結論
合併症のない大動脈解離stanfordBに対する待機的ステントグラフトの最初の無作為化試験において、TEVARは良好な大動脈リモデリングを認めたものの、2年生存率や有害事象発現率は改善しなかった。

◯この論文のPICOはなにか
P:合併症のない大動脈解離stanfordB
I:至適薬物療法+TEVAR(TEVAR群)
C:至適薬物療法のみ(薬物療法群)
O:2年生存率

inclusion criteria:発症後2−52週
exclusion criteria:TEVARや開胸手術の適応(大動脈径6cm以上)、急性合併症の再発、解剖学的にTEVARが不適(75°以上の大動脈の捻れ、完全な偽腔血栓化)

◯baselineは同等か
同等。
haracteristics

◯結果
地域:ドイツ、イタリア、フランスの7施設
期間:2003年11月から2005年11月
無作為化:コンピュータを用いた置換ブロック法
盲検化:治療介入者や患者は盲検化できない。アウトカム評価者は盲検化されている。
症例数:140例(TEVAR群72例、薬物療法群68例)
必要症例数:140例(薬物療法群の2年間の死亡率を20%、TEVARによるリスク減少が3−5%と仮定し、power80%、αlevel0.05として算出)
解析:ITT解析

TEVAR群でTEVARを行わなかったのは2例(同意の撤回1例、突然死1例)、薬物療法群でTEVARを行ったのは2例であった。TEVARを行った70例はすべて成功し、開胸手術への切り替えはなかった。

result
(tableはすべて本文より引用)

◯感想/批判的吟味
合併症のない大動脈解離stanfordBに対し、薬物療法を行った場合の2年生存率は95.6%と予想よりもはるかに高く、それほど予後は悪くなかった。合併症がなく、臨床的に安定していれば、薬物療法で十分ということだろう。

有意差はなかったものの、むしろTEVAR群で2年生存率は低く、その点は認識しておくべきだろう。ただ、大動脈リモデリングはTEVARで有意に多くみられており、これが超長期の成績にどのように影響するか、検証が待たれる。