血管疾患

急性大動脈解離 レビュー

Management of acute aortic dissection.
Lancet. 2015 Feb 28;385(9970):800-11.

《疫学》
入院患者を対象にした研究では、発生率はだいたい3/10万例。
人口ベースだと、6/10万例ぐらいで、平均年齢63歳。

《病態生理》
多くの場合、瘤化せずに解離する。
中膜変性や中膜嚢胞性壊死が先行し、内膜が裂け急性解離を起こす。
解離は巡行性や逆行性に進展する。
合併所として、心タンポナーデ、大動脈弁機能不全、臓器灌流障害がある。
多発血管炎、高安動脈炎、ベーチェット症候群などの炎症性疾患では、炎症が大動脈破裂の危険性を増大させる。

《病歴・身体所見》
高血圧と結合組織疾患の病歴が、最も頻度の高いリスクファクターである。
もっとも頻度の高い身体所見は、心筋虚血の証拠がない突然発症の胸部痛、または背部痛である。
激しい運動後や薬物(コカイン、アンフェタミン)の使用後の強い胸背部痛は急性大動脈解離を強く示唆する。
失神・不全対麻痺・対麻痺などの神経学的所見が認められることも稀ではない。
新規の大動脈閉鎖不全症、心囊水、心筋梗塞の合併は、近位部の大動脈解離を示唆する。

《要因》
高血圧は最も多いリスクファクターで、急性大動脈解離の75%は高血圧に罹患している。
その他に、喫煙、外傷、薬剤(コカイン、アンフェタミン)がある。
降圧不良は死亡のリスクである。
治療抵抗性高血圧は、大動脈スティフネス増加や病態生理学的メカニズムを反映しているのかもしれない。

《遺伝》
急性大動脈解離の約20%が、結合組織(Marfan症候群、Turner症候群、Ehlers−Danlos症候群4型)、平滑筋細胞、病理細胞シグナル(Loeys−Dietz症候群)の変化によるものである。
Marfan症候群はFBN1の、Loeys−Dietz症候群はTGF−β受容体2遺伝子(TGFBR2)の変異である。

《分類》
超急性期:24時間未満、急性期:2−7日、亜急性期:8−30日、慢性期:30日以上
Debakey、Stanford、PENN ABCなどの分類がある。
血管内治療と関連した分類で、DISSECT分類がある。
D:duration of dissection、発症から2週間以内、2週-3ヶ月、3ヶ月以上
I:intimal tear dissection、上行大動脈、大動脈弓部、下行大動脈、腹部大動脈、不明
S:size of aorta、大動脈径
SE:segmental extent、病変の広がり
C:clinical complications、大動脈閉鎖不全、心タンポナーデ、破裂、分枝閉塞
T:thrombosis、偽腔の血栓化

《画像診断》
CT、経胸壁心エコー(TTE)、経食道心エコー(TEE)、MRIが用いられる。
造影CTがメイン。
CTもMRIもTEEも感度98−100%、特異度95−98%と、確定診断・除外診断にいずれも有効。

CT
まず単純CTを撮り、内膜石灰化の内腔への移動がないか確かめる。これは大動脈解離の典型的な所見である。

TTE
近位部上行大動脈や大動脈弓部の観察は難しいが、大動脈基部や大動脈弁の評価は可能である。

TEE
TTEより画質がよく、内膜の裂け目や病変の広がり、心腔の圧排などが観察できる。

MRI
造影MRIが行われる。ガドリニウムはヨード造影剤より腎毒性が少ない。腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis)などの有害事象は極めて稀である。

《予後予測因子》
徴候
IRADデータより。以下は死亡のリスクであり、それは大動脈破裂によって主に引き起こされる。
治療抵抗性の疼痛や高血圧:オッズ比3.3
70歳以上:オッズ比5.1
入院時に胸痛がないこと:オッズ比3.5

解剖
大動脈経が5.5cm以上の場合、それ以下と比較し院内死亡は4倍。
偽腔が22mm以上の場合の瘤化に対する感度は100%、特異度は76%である。
偽腔の多発は、大道脈関連死の独立した予測因子である(ハザード比:5.6)
偽腔の完全な血栓形成は予後が良い

《バイオマーカー》
Dダイマー・FDP
Dダイマー:0.5μg/mlをカットオフとした場合の急性大動脈解離の感度97%、特異度47%であり、陰性であればその可能性は低い。
偽腔血栓閉塞、解離長が短い場合、若年では偽陰性になることがある。
FDPは急性冠症候群より急性大動脈解離でより上昇しやすく、カットオフを2.05μg/mlとした場合陰性的中率は97%である。

管理とアウトカム
上行大動脈にも解離が及んでいる場合は速やかな手術が必要。
下行大動脈のみの場合は、臓器・下肢灌流障害、解離の進展、切迫破裂、難治性の疼痛、血圧コントロール不良、早期の偽腔拡大などが認められない限り、薬物療法を行う。
発症48時間以内は死亡率が高い。
診断が遅れる要因として、女性、他院からの転院、発熱、正常血圧がある。
初期治療は降圧で、β遮断薬が第一選択薬である。
収縮期血圧100−120mmHg、心拍数60−80/minを目標に薬剤調整するべきである。
stanfordAの場合、治療を受けなければ初日の死亡率は1−2%/時間で増加し、1週間で半数が死亡する。
死亡原因は、近位・遠位への解離の進展、弁機能不全、心タンポナーデ、脳梗塞の原因になるような大動脈弓部分枝閉塞、内臓虚血、破裂である。
stanfordAの生存率は、術後30日で91%、術後1年で74%、術後5年で63%である。
stanfordAに対する血管内治療(TEVAR)もいくつか報告されている。
合併症を有するstanfordBに対するTEVARの院内死亡率は9.0%。
観察研究では、TEVARは合併症を有するsranfordBの生存率を改善している。
結合組織病においては、TEVARの血管リモデリングは期待できない。
難治性疼痛、灌流障害、大動脈径拡大1cm/年、大動脈径5.5cm以上の場合は、TEVARを含めた外科的治療の適応である。
INSTEAD試験では、合併症のないstanfordBに対して薬物療法に加えTEVARを行うかどうかで、2年生存率に差はなかった。
INSTEAD−XL試験の5年のフォローアップでは、TEVARによって血管関連死が有意に低下した。

《長期フォローアップ》
再解離、瘤化を予防するためβ遮断薬を含めた降圧薬が必要である。