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先天性心疾患とシナジス®

うちの長男はもう2歳になるが、低出生体重児で心室中隔欠損(VSD)による肺高血圧(PH)も伴っていて、1ヶ月ほどNICUにいた。退院後もしばらく利尿薬を内服していたが、今はVSDは残存しているが内服もなくなりPHもない。

今まで冬になると、シナジス®(パリビズマブ)を毎月打っていて、今年もその季節に差しかかりつつある。小児循環器の主治医からは、今年はどうしようかという話があったが・・・。打つ必要がないなら打って欲しくないし、打った方がいいなら打って欲しいと思う。でも、実際はそんなに明確に分けられるものではなく、グレーゾーンが存在するし、マクロのデータを個々の患者さんに応用しようと思った時のギャップみたいなものがあるんだと思う。

まずは、基本的なことから。
・RSウイルスとは、乳幼児の下気道感染症の主要原因ウイルス
・2歳までにほぼ全員罹患する
・下気道感染症は乳幼児の入院の主要原因
・早期産、慢性肺疾患(CLD)、先天性心疾患(CHD)、ダウン症は重症化のリスク
・RSウイルスの予防接種はない
・シナジス®は抗RSウイルスモノクローナル抗体
・シナジス®に治療効果なし

疫学的なこと。
・米国では、毎年210万人のRSウイルス感染がある
・5歳以下のRVウイルス感染での入院のうち月齢12ヶ月以下が75%を占める

CHDにおけるシナジズ®の効果 参考文献2)
・randomized、double blind, placebo-controlled trial
・industry-funded
・約1300例のデータ
・入院率を4.4%低下させた(シナジス®群9.7%、プラセボ群5.3%)
・入院期間/100例:シナジス®群57.4、プラセボ群129.0と56%相対減少
・ICU滞在期間、挿管率、挿管期間はシナジス®群で低い傾向があるが優位ではない(挿管は1−2%程度と低いので、症例数が増えれば有意差が出る可能性はある)
・CHDのタイプ別のサブ解析はパワー不足
・有害事象の発生は両群間で有意差なし

シナジス®の2シーズン目の効果
・CLDは月齢12−24ヶ月でもRVウイルス感染による入院のハイリスクなので推奨
・CHDでの2シーズン目でのシナジスの効果は証明されていない
・月齢12−24ヶ月の入院率は、生後0−6ヶ月のリスクを持たない児の入院率の半分程度
・米国小児科学会ではCHDでは、2シーズン目は推奨していない

日本小児循環器学会のガイドラインでは、
先天性心疾患におけるシナジス®の適応は、RSウイルス流行開始時に生後24ヶ月以下で、1)明らかな循環動態の異常、2)症状の残存、3)PH、4)手術もしくは心臓カテーテル検査が予定されている、5)循環動態の異常は軽度だが呼吸器疾患を合併している、のいずれかを満たすもの。そして、除外基準として、循環動態に異常を認めない心疾患(小さなVSDなど)とある。

患者側の立場だとある治療を選択するにしろ選択しないにしろ、そこに一定のリスクを背負ってるわけで、確率が低くても重大な結果に繋がりうる選択をすることは非常に難しい。シナジス®を打ってもRVウイルスに罹患する可能性や重症化する可能性はある。自分たちでできることをきちんとしなくちゃいけないなと思った次第。
・手洗いの励行(石けん)
・アルコール消毒も有効
・受動喫煙の回避
・インフルエンザワクチンも接種

参考文献:
1)Updated Guidance for Palivizumab Prophylaxis Among Infants and Young Children at Increased Risk of Hospitalization for Respiratory Syncytial Virus Infection(Pediatrics 2014;134:e620–e638)
2)Palivizumab prophylaxis reduced hospitalization due to respiratory syncytial virus in young children with hemodynamically significant congenital heart disease(J Pediatr 2003;143:532)
3)先天性心疾患児におけるバリビズマブの使用に関するガイドライン
4)Risk factors associated with death in patients with severe respiratory syncytial virus infection(Journal of Microbiology,Immunology and infection2014)